くわまん

レディ・バードのくわまんのレビュー・感想・評価

レディ・バード(2017年製作の映画)
4.5
もし、女性の青春がこんなにもスピーディーでクールなのだとしたら、男より早く成熟するのも当然ですね。恐るべし、グレタ・ガーウィグ。

みどころ:
青春総集編を僅か89分で
悩み多き親子へのエール
親側にも感情移入させる
T.シャラメが“闇の騎士”
J.ブライオンの劇伴が完璧
戦争以外でも悲劇は起こる

あらすじ:
今は2002年。9.11以来、アメリカはイラクと戦争してる。どうなるんだろ…。
あたしは17歳。いっぱい傷つくし、いっぱい傷つけてる。どうなるんだろ…。
色々どうなるんだろ…マジで……。

何をしたって責任を問われない、モラトリアム期間の中核である青春期は、「人生で大事なもの」を模索し始める時期ですよね。それは何かと彼らに問えば、「友達」とか「恋人」とか「知らねーよボケ」とか答えてくれるでしょう。社会に出て1年もしないうちに聞かれなくなり、「お金」や「休み」にとって代わられる返答ですね。多くの新社会人には、そんなことに考えを巡らす時間も精神的余裕もないからです。そして青春は「そんなことばかり考えていたお気楽な時間」として振り返られます。

要するに青春時代は、甘いとか酸っぱいとか苦いとか以前に、チョー暇なのです。ごく一部の志ある若者を除いて、ほぼ全青少年が無為に悶々と過ごしちゃうのは、チョー暇だからです。したがって、“自分探し”にいくらでも時間を費やせるのです笑

とかく淡くキラキラと、あるいはどんより鬱々と、超高温や超低温で描かれがちな青春を、徹頭徹尾平熱で描いたグレタ・ガーウィグの演出は、抜群の切れ味でした。青春時代は、センスいい音楽なんて流れないし、ご聖体なんておやつだし、オ○ニーなんてシャワーヘッドでするし、燃えるようなセッ○スなんてないし、みんなで大団円なんて起こらないのです。こういった、彼らに入ってくる膨大な量の新情報を、視点を切り替えながら早送り一歩手前の速度で見せていくので、素早くテンポよくどっぷりのめり込めます。女性ならではの現実的視点と男性的な効率性が同居している、新世代だからこそ出来た離れ業なのかもしれませんねぇ。素晴らしいです。

さてレディバードことクリスティーンは、だらだらと暇を潰すのをやめて思い立ちます。クソつまらない生活を変えたくて、色んな方向に猪突猛進します。結果たくさんの人を傷つけ、自分も傷つき、「がんばっているのに誰も幸せにならないのはどういうことなのか。」と自問自答するのです。これは紛れもなく、自立への葛藤ですよね。

この葛藤すなわち“生きがい探し”は、充実した人生を送るために必要不可欠なものですが、グレタ・ガーウィグはソレを青春時代に始めておいたら?と勧めてくれているのかもしれません。移ろいやすい反面変化に柔軟で、かつ時間の有り余っている学生のうちに葛藤し始めたなら、クリスティーンのように早い段階で夜明けが近づくからです。

さらにこの映画は、親もしくは大人の心境や態度にも言及します。ともすれば快楽や高熱量に引き寄せられる10代に対して、大人は嫌われることを怖れずに、彼らを善い正しい方向へ導くために、立ちはだかるべきであると説きます。なぜなら、その想いはいずれ必ず子供に伝わる(必ず親を見抜く)ので、(通じなかったらどうしよう…というような)心配こそは無用だと言うわけです。

人生は、誰もが死ぬまで初体験の連続。初めて青春時代を過ごす青少年と、初めて青春期の子を育てる親たちへ贈られた、冷静かつあたたかな一本でした。この内容を90分弱でまとめきったグレタ・ガーウィグの辣腕に、今後も期待せずにはおれません。