Yuya

森のカフェのYuyaのレビュー・感想・評価

森のカフェ(2015年製作の映画)
3.8
ネクタイも 携帯も 目的もいらない

喫茶店…それは 日常から切り取られた
"これまで"と"これから"の寄り道の場
珈琲の燻ぶった香り 澄んだ音に包まれ
止まった時間の中で 静かに荒ぶる高揚
やがて 過去と未来を縫い直してくれる

やっぱ いつのどの場面を思い返しても
中途半端に終わらせてる 自分が写るよな

紅茶のシナモンスティックが折れた時
発売日を待ちわびた小説を閉じた時
ジムノペディの旋律で針が飛んだ時
煮詰まって殴り書いた論文を丸めた時
「ちょっとくらい恨ませてほしいよ」
と瞳を真っ赤にして呟く彼女にフラれた時…

思うに 喫茶店なんて ダメ男の雨宿り
なはずのに すっかり居心地がいいんで
まいってしまうんだよね これが…
救いなのは 出口のドアがあるコトさ
乾いた鐘の音に笑われ 立ち去るだけよ

哲学ってのも ちょっと似てるのかな
突き詰めて突き詰めて 何を得るでもなく
また 別の場所へ足を向ける為の通過儀礼

紅葉の煌めき 秋の気配 ケラケラ笑う女
なんだか 劣等感のない敗北のようで
不思議と足取りの軽くなる作品だった

たまには 苦いヤツ目当てで大人ぶりに行こうか
…いや でも雰囲気いいトコに限って
注文が届く度 パシャパシャと猥褻に
シャッター切る音が 耳をつん裂くから
やっぱ家で淹れるか…ジークレフで葉っぱでも?
Yuya

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