OASIS

ベテランのOASISのネタバレレビュー・内容・結末

ベテラン(2015年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

正義感に燃える広域捜査隊のベテラン刑事と悪徳企業の若き御曹司との戦いを描いた映画。
監督は「生き残るための3つの取引」等のリュ・スンワン。

腐敗・不正に塗れた悪辣な輩どもを「痛み」を確かに感じさせるアクションで自らも血みどろになりながらも薙ぎ倒す快作だった。
ドロップキックももちろんあり(ただし外しのテクニックもあり、これ重要)。
男臭くて汗臭く、敵の足元に必死にしがみつくような泥臭さ溢れる中にも、キラリと光るたった一粒の「プライド」が血潮を熱く滾らせる。
只管耐え忍び僅かな隙を突いて反撃の狼煙を上げるという、胸がすく王道の流れではあるが「指を動かすだけで泣ける」演出のキレが最高で、ラストの10秒間だけで僕は泣かされてしまった。

過激な捜査で中々昇進にありつけない子持ちのベテラン刑事ドチョル。
大規模な詐欺グループを検挙し浮かれていた捜査隊だったが、その最中で運送会社に勤める知人の自殺未遂事件が発生。
真相を探る内に、同会社の室長テオ率いる役員達により事件が揉み消されようとしている事を知る。
前半はコミカルに進み、後半からはややシリアス成分多め。
ただ「生き残るための3つの取引」や「ベルリンファイル」等の硬派な作風に比べるとかなりライトな印象で、監督初期作品の「シティ・オブ・バイオレンス」に近い雰囲気だった。
題材が題材だけに、後半になると途端にそれまで軽快に繰り出されていたコミカルさが鳴りを潜め始めるのがやや残念ではあるが、最後までコミカルとシリアスの境界線ギリギリのバランスが保たれていた様に思う。

半ば強引に一歩を踏み込んで捜査が進展したかと思えば、企業側が金にものを言わせて刑事への賄賂・買収によって証拠隠滅を図るというやったやられたの攻防が一進一退に繰り返されて行く。
韓国では「ナッツ・リターン事件」日本では「大塚家具騒動」等、大財閥の内部抗争が取り沙汰される昨今だけに、かなり大袈裟に誇張されているような今回の企業側の内部事情もあながち全てフィクションとも言い難い部分がある。
実際問題、今回の被害者である運送会社社員のように煮え湯を飲まされた弱者は山の如く存在しているであろうし、映画内でもそのいち被害者にスポットをあてかなりの時間を費やして弱者に寄り添った描き方をしていたのは好感が持てた。

そして、正義側にも正義側なりの信念、そして悪側にも「悪として生きる道しか無い」と感じさせる執着や逃げ道の無さなどがあり、どちらか一方に偏った描き方では無い所も上手い。
御曹司ですらもその一族内では立場が弱く、彼の従兄が常にヘコヘコと笑顔のマスクを貼り付けたように気持ち悪い応対を繰り返すといった滑稽さと狡猾さも、その裏にある大きな存在から身を守る為の手段であるとなると見る目がまた変わって来る訳で。
「絶対的な悪」という存在もそれはそれで怖いが「悪になるしかない悪」も人間的で執念的な部分が垣間見えるが故に、尚更その強固な信念の前には敵わぬ何かがあると感じさせる。

また、少しの間延び感を感じてしまう前に、絶妙なタイミングで以前に蒔いた小さな伏線を小気味良く回収する事で展開して行く脚本の良さも光る。
規模の小さな事件の積み重ねによって大規模な目標にまで辿り着くという、さながらTVドラマの1クールを2時間に詰め込んだような構成は一本の映画で12話分一気に視聴したと同様の満足感が得られた。
クライマックスの市街を大暴れし道を塞ぐ他車を破壊しまくるカーチェイスの激しさはその壊れっぷりが一層気持ち良いくらいだし「クライング・フィスト」ばりの痛さのみを追求したかのような肉弾戦は思わずこちらまで顔を顰めてしまうほどのリアルさだった。
鳩尾に消火栓のてっぺん部分って...イタタタタ。
そこまで慎重だった捜査が、ラストの突入作戦になると途端に力技になってしまっていて丁寧さに欠けるなとは思ってしまったが、クライマックス同様に力で押し切られてしまった感じだった。

ファン・ジョンミンとオ・ダルスという「国際市場で逢いましょう」コンビの軽妙な掛け合いは安定感がありもはや相棒として定番化した感があり「このコンビで刑事ドラマをやって欲しい」と切望するほど。
また、彼ら広域捜査隊のメンバー5人がそれぞれちょっと抜けたリーダー、熱血漢、勘違いなちょいブス女、それに惚れるドジ男、イケメンの若手という非常にバランスのとれた構成でそのチーム感も抜群。
それにとどまらず、ユ・ヘジンやチョン・マンシク、そして「アジョシ」のボスといった企業側の面々もこれまた良い悪役面ばかりが揃っていて、善悪両陣営が韓国映画の「良い顔」で構成されたオールスター感謝祭的なお祭り感すらある。
もちろん「マ」のつく我らがあの人も超美味しい役で登場するぞ!

中でも、テオ役のユ・アインの第一印象から最後の最後まで顔を見る度ムカつき通しな心底腹立たしい顔面は憎むべき敵としては申し分無し。
彼が「ベテラン」に成長すれば「トガニ」の校長役でお馴染みのチャン・グワンのように、見ただけで腸が煮えくり返るような立派な悪役となってくれる事だろう。