140字プロレス鶴見辰吾ジラ

ダウンサイズの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

ダウンサイズ(2017年製作の映画)
4.0
【歩けども歩けども】

この話は冒頭の主人公と病気の母親との会話で成立している気もするが、のらりくらりとSFでありつつヒューマン喜劇としてのある種の緩さに支えられつつメッセージを投じている。

度重なる人類の悩みは加速するもので、環境問題、食料危機と後をたたない。そこで人類を13センチまで縮小すれば、これが解決すると荒唐無稽なプランを呈示したから、いかにもな星新一テイストな奇妙なSFに発展していく。とにかくマスコミの前に13センチの人類が公開されるシーンが果てしなく居心地が悪い。これが知恵の実を食したり、パンドラの箱を開けたり、原爆を開発したときのような気分なのだろうか?話のテンポはカッティングで強引に進めるも明らかに不穏で、ダウンサイズすることの喜びを皆が語るも、何か釈然としない雰囲気作りに逆に集中力が加速していく。実演販売形式でコマーシャルする役者なのか夫婦の会話がとにかく笑顔でかつ気持ち悪い。

中盤にダウンサイズを決意し前へ進むと決意したマット・デイモンが妻に裏切られるシーンは吹き替えの平田広明氏の演技も相まって絶妙な間抜け度合いと喪失感。そしてここから主人公が前へ進めども進めどもな存在であり、ダウンサイジングのブラインドサイド、つまり見えていなかった側面が浮き彫りになるところから、本作が人類が小さくなるおとぎ話よりもずっと哀しい、人種だったり宗教だったり、自己存在の悩みという人類の気にすべきで後回しにしている悩みの解決をつきつけてくる。それが緩い雰囲気ゆえの気軽さの中に注入され、これがまた居心地が悪い。

人類の科学が進歩しても進歩しても、荒唐無稽だったSFの世界が目の前に実現しても、傍らの悩みの種には水を与えず腐ったものが生まれて、また蓋をする人類の進歩のなさに憂いを感じてエンドロールに行き着いた。


あと、劇中のベトナム陣が知り合いの母親に似ていて何か気まずいそんな場面もあった。

物理的に悩みを小さくしても、悩みに形なんてないんだよな~。