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ダウンサイズのohassyのレビュー・感想・評価

ダウンサイズ(2017年製作の映画)
3.0
「小さくなるの、めっちゃ怖くない?」


もし小さくなることでいわゆる「豊かな暮らし」が実現すると言われたら、果たして僕は実行するだろうか。
いや、無理。
全然無理。
せめて小さい人たちだけで全てを賄えるようにならなくては、とてもじゃないけど安心できない。
誰かに生殺与奪を握られている状態は耐えられない。
それってつまり、囚われの身じゃん!

前半はそんなことを考えながら、のんきな主人公たちが小さな世界へ希望を求めるさまを眺めていた。

本作の面白さは、小さくなることで消費エネルギーが劇的に抑えられ、大きかった時と比べて相対的に経済的優位が作られる、という発想だ。
確かに土地は一坪もあれば大豪邸が建てられるし、建物や自動車、日用品などの部材やエネルギー、食材なんかも物理的に少量で済む。
一方で、小さくなっても変わらず能力を発揮できる仕事もあるなあと。
例えばプログラミングなどのIT技術や、音楽、小説、デザインなどのクリエイティブ。
マットデイモン扮する主人公、ポールもやっていたテレフォンオペレーターも、電話で話すだけだから大きさは関係ない。
ちなみに104に電話すると「ガナハです」とか珍しい名前の人が出ることが多いのだけれど、それは沖縄など比較的コストが抑えられる地域に拠点を作るから。
場所というものが経済活動には大きく影響するという、とても好きな話。

小さくなった人たちは、急にお金持ちになったからほとんどの人が働かない。
劇中では資産が1000倍に換算されていたけれど、100万円が10億円の価値になるのならそりゃ働かないか。
僕は仕事が大好きで、大型休暇になると映画を観る以外の時間が手持ち無沙汰になりがちなのだけれど、それでも仕事をするかと言われると、やっぱり辞めちゃうかなあ。

そんな中、医者の夢を諦め企業の健康アドバイザーをしていたポールは、小さくなった後もテレオペの職についていた。
その辺りから、本作の軸となるものがようやく見えてくる。
彼も大きな時は経済的な行き詰まりを感じる程度の庶民だったのが、ダウンサイズ後は大金持ちになった。
なのに、特に楽しいとは言えない仕事にわざわざ就く。
これはアイデンティティの確立のためだ。
そこからの物語は、ポールの自分探しの旅となるわけだ。

作り手側としては、本作は「お金がかからないSF映画のアイデア」としてとても優秀だと思う。
余計な美術やCGがほとんど必要ない、小さく映すだけでいい。
大きな人がいなければ、普通に芝居をするだけで成立する。
最近だと「散歩する侵略者」も同じ手法でSFを成立させていたっけ。
日常的なストーリーだと説教くさかったり陳腐になってしまうことを、特別な設定に置き換えることで成立させるのは常套手段ではあるが、表現が豪華になってしまいがちなのが難点で、そういう部分ではすごく評価したい。

前半部分の「小さいあるある」はとても楽しいけれど、それだけで最後まで引っ張っていたとしたら、きっとお金もたくさんかかるし、全く違う種類の、パニックアクションものになっていたことだろう。
実際大きなままの人たちの気が変わったり、ちょっとでも怒らせてしまったら、あっという間にこの桃源郷は潰されてしまうのだから。
それも見てみたいけど、それはアントマンか。
追い詰められた挙句もう一段階小さくなって、みたいな展開はちょっと期待したけれど。
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