ちろる

ミモザの島に消えた母のちろるのレビュー・感想・評価

ミモザの島に消えた母(2015年製作の映画)
3.5
人は過去の謎に疑念を抱き始めたら、もう忘れて前になんか進めない。
それが美しくてやさしくて大好きだった母親の「死」に関する謎だったら尚更だと思います。

母が亡くなる時幼かった妹も、父も、祖母も口を閉ざして忘れたふりをしているのに、主人公アントワンだけはその喪失感から抜け出せないので周りもそんな彼に辟易している。
男はみんなマザコンかもしれないけど、アントワンの執着心はマザコンのそれとは違うような気がする。
愛する母の死は本当に事故なのか?
それとも幼い自分たちは置いてきぼりにされたのか?
父親となり娘を持つ今だからこそ、溢れてくる母への慕情と、なぜ??という疑問に身動きが取れなくなってしまうアントワンの静かな狂気はズキズキと痛く響いてきて、前半は割と暗めな描写が多い気がします。

しかし後半、ノワール ムーティエ島と本島をつなぐパサージュを軸にした事件の真相は見事で、前半の淡々とした暗い描写から一気に、美しかった母が隠し持った情念の物語は大胆で、美しくて、そして切ない。

始まりから3.40分くらいはなんとなく地味で、これ面白いのかな?と不安でしたが、アントワンが気合を入れて、謎を少しずつ薄皮をはがすように解明していく感じや、ヒューマンドラマが程よく絡み合って、映画として割と重みのある作品だったと思います。

秘密なんて秘密を守るほうが絶対難しいのに、隠し通せるってよっぽどなのだろう。
隠し続けた父と祖母、そしてそれを暴こうとしたアントワン。どっちも正解だし不正解だったんだろうなと感じました。
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