河豚川ポンズ

あなたの旅立ち、綴りますの河豚川ポンズのレビュー・感想・評価

あなたの旅立ち、綴ります(2016年製作の映画)
3.8
自分もいつか死ぬとしたらこんな風にと思う映画。
どうも自分は生よりも死にテーマ置いたものの方が好みらしい。

大きな豪邸で一人暮らし、そこには庭師の切り方1つにも細かく注文をつけるような性格のあまり良くない老女が住んでいた。
彼女、ハリエット・ローラー(シャーリー・マクレーン)は持ち前の強気と完璧主義で広告業界で大きな成功を収め、まさに成功者としての人生を送っていた…はずだった。
しかし、高齢になり老い先短い身となった今、彼女の周りには誰もいなかった。
それでも特別寂しさなど感じていなかった彼女が唯一気にかけていること、それは新聞に載る自分の訃報記事だった。
完璧主義の彼女にとって、とてもじゃないが自分の気に入らない訃報記事が書かれるなんてたまったもんじゃない、何よりビジネスの世界で成功した自分が惜しまれつつも亡くなったという記事で無くてはならないと彼女は感じた。
そこで彼女は昔広告を出していた新聞社に殴り込み、アン・シャーマン(アマンダ・セイフライド)という若い記者にその記事を書くように命令する。
しかし、とてもじゃないが上手く書けそうにアンはハリエットにある提案を持ちかける。
それは今から出来ることで記事のネタを作ろうというものだった。

身も蓋もなくとにかく簡単に言うなら、泉ピン子みたいな性格悪いおばあさんが人生の総決算を図る話。
まあ世の多くの人はさすがにあそこまで性格悪いというか、他人に嫌われ続けて生きていくというのはそもそも難しいはず。
でも多少の違いは別として、何かしら他人に迷惑をかけてしまったり、昔気にかけた人が今はどうなっているのか?ということが今でも気になったりということもあると思う。
そして自分が死を目前にしたとき、まさしく走馬灯としてそれらを思い出すのかもしれない。
長く生きていればそれもなおさらだろう。
だからこそ、完璧主義のハリエットはそれを見過ごせなかった。
こういう話は、大概本人が改心してごめんなさいで収めることが多いし、実際観客の心情としては反省してほしいというのが強いからだろうけど、この映画のハリエットは基本的に改心しない。
改心しないというか、コミュニケーション不足が大半なのでもちろん分かり合えないことも出てくるけど、それでもそれを納得できる答えとして受け入れていくというのが大まかな流れ。

ボーッと観ていて思ったのは、死後讃えられる人というのは、どれだけすごいことをしたとか、どれだけ優しかったかということはもちろん大切だけど、それ以上にどれだけ本気で人と向き合ったかどうかということ。
結局死後に残される側の人次第なわけなので、その人たちにどれだけのものを送れたか、それは物理的なものであれば知恵や優しさやら色々あるだろうけど、それが後々にその人の中に残るものでないといけない。
この映画だとハリエットはアンとブレンダに女性として強く賢く勇気をもって生きることを伝えていた。
果たして自分がこの先死ぬとして、周りの人は同じように送り出してくれるだろうか。
間違いなくハリエットよりかは人間出来てるはずだとは思うけど、それでもあんな風になるかどうかは分からない。
だからこそ、今から人と本気で向き合っていくしかないのかもしれないと思った。