Jeffrey

母親支援のJeffreyのレビュー・感想・評価

母親支援(1942年製作の映画)
3.5
「カール・Th・ドライヤー短篇全編」

冒頭、物干しに干された洗濯物の描写。赤子のショット、城の内部、汚染水、井戸、彫刻、橋、大自然、癌と言う病、フェリー、バイク事故、死神。今、ドライヤーの短篇全編が公開される…本作は1940年代から1950年代にかけてドライヤーは他の監督の短編映画の脚本を書いた。他、いくつかの短編映画の監督を自ら行ってた作品たちが収録されていて、一般的にもほとんど知られていなかった本作らを、この度DVDをやっと見つけて購入して初鑑賞したがどれも素晴らしかった。

ここには8タイトルが収録されており、彼の芸術的豊かさを提示している多くの作品があり、とりわけ「彼等はフェリーに間に合った」はずば抜けた傑作だと感じる。まず長編劇映画と言うものを制作するのが困難だった時代に彼は短編と言う作品を何本も取ったが、事実的には国からの宣伝による命を得て、制作していると言う事柄があるようだ。という事はドライヤー自身は必ずしも望んで映画を監督したと言うわけではないと思う。この短編映画については。なので、長編映画と同列で論じる事は難しいかもしれない…。

それにしてもこの8タイトルの1部を除いた作品はほぼドキュメンタリータッチに描かれているが、あくまでも商業的な面影を残している。今の時代このような作品は商業映画ではなく集客を確保するのが非常に難しくなっていると思うが、当時はこのようなドキュメンタリータッチな作品も商業映画の1つとされ、高く評価されていたのかもしれない。ちょうどドライヤーの傑作「裁かるるジャンヌ」などが制作された1920年代後半と言うのは、前衛芸術の真っ只中の時期であるのは周知の通りで、ドキュメンタリー映画は一種の流行になっていたと個人的には思う。とは言っても1910年代からは文化映画と言うものがドイツを始めとし、推薦され始め、デンマークでも文化映画の会社が設立をしていた。その中でドキュメンタリータッチを貫いたドライヤーの「吸血鬼」以降に撮影された「母親支援」を今更ながらに初鑑賞した。そのレビューをする。

「母親支援」

まず、本作が作られた経緯を話すと、長らく映画監督をしていなかったドライヤーに新作映画を作るチャンスを与えた人物がいる。それは友人のエベ・ネアゴーという人らしい。そしてドライヤーの天才ぶりを感知していたM=S.ハンセンとの出会いも大きかったとの事だ。さて、本作は母親支援協議会とのコンタクトを取ったドライヤーが、実際にある施設での撮影をして、全くの素人キャストを揃え、演技させた作品である。余談だが、1942年11月20日に共同監督作品と言う劇映画の前座としてコペンハーゲンで封切られたそうだ。この作品は、女性たちの受難を描いた僅か10分ちょいの短編だが、見ごたえは十分にある。泣き喚く赤子のクローズショットと大人の手の描写は印象に残った。

「田舎の水」
本作はデンマーク政府映画コミッティーによって企画が立てられたものであり、1944年にカルンボーの地方保健局技官が出版した報告書によってショッキングな井戸水の水質に関する改善策を協議した会議での、国民への関心を映し出した1本だと感じ取れる。しかし結局一般公開されなかったらしく、2008年になってデンマーク映画協会のアーカイブから復元され、ようやく鑑賞できるようになったと言うことである。どうやら農業省と保健局がクレームをつけたのがきっかけで、上映禁止になったらしい…またナレーションが次から次えと言葉を話す作風でもある。井戸の真下から撮影するシーンが印象に残った。立ちしょんべんするシーンや歯磨きをするシーン、蛇口の汚れた水での入浴などの、いちいちナレーションが悲観的でネガティブキャンペーンをしているかのようで非常に笑える。細菌付きのスポンジを口にほおばった赤ちゃんの描写でもディスる形で、その後に顕微鏡で見たばい菌の描写を映したり笑える。と言うよりかはかなり煽ってる映画だと思う。またハンセン病の新聞記事を映したり、地図でどこが汚染の元などを話し合ったり、なかなか短い尺の中に収めている。パイプを地下に落としたりポンプで土を上に持ってきたりする映像はなぜだかドライヤーらしい演出だなぁと思う。少しばかりおしゃれなんだよ。

「村の教会」
本作はデンマーク文化映画の使命の1つとして、デンマークの文化を外国に紹介すると言う企画として制作されたとの事だ。この作品は教会のミサの場面で歴史的光景を演出する場面がとても素晴らしく、ホーヴァー教会を皮切りに、8つの教会とデンマーク野外博物館で描写されている。この頃か、わからないがドライヤーが宗教に関心、特にキリスト教に関心をし始めている背景がなんとなくある。それが後に金獅子賞受賞した彼のキャリア史上の大傑作と個人的には自負しているが、その「奇跡」もキリストを題材にしていた。どうやら村の教会も当時批判されたようだが、この手の作品は必ずしも何かしらの横槍が入ってくるものだ。村の教会のロングショットの建築物の圧倒感は凄かったが…。ゴシック様式のデザインはやっぱり先が尖っていて、かっこいい。窓も大きくて開放感が抜群で、天井も中央の柱も外壁もアーチもすごく繊細だ。この内部の宗教的革命が良いし、伝統と歴史が感じ取れる。特にヨハネの肖像が残っているのと、色々とカトリックの歴史ものが残されているなぁとしみじみ感じる。

「癌との戦い」
この作品はドライヤー自身が脚本まで書いて監督したにもかかわらず、自分の名前をエンドクレジットに載せるのを拒否したと言う異例中の映画と言うことだ。なので、中々上映もされなかったとの事だ。もっと言うと、この作品を作ったことを非常に悔やんでいるらしい…。まぁ独自のスタイルとメッセージが欠けてる様には感じたが、理由は何なのかは分からない…誰か知ってたら教えて。医師と看護婦が患者を診断するホワイトクロスのシーンが何故か、印象に残った。あとは癌との戦いの基本的な事柄は分かる…。放射線治療を行ってくれるデンマークの中の病院を伝えたり、とにかく癌だと思ったら迷わず病院へ行きなさいと言うメッセージが終盤に流れていく。ものすごい宣伝作品だなと感じ取れる。

「彼等はフェリーに間に合った」
この映画も一応交通安全を訴える作品となっているが、ナレーターによるナレーションが幾分ないため非常に見やすい映画である。彼の持っている短編映画の中では秀作の1本だろう。この作品の原作者は1944年にノーベル文学賞受賞した20世紀デンマークを代表する作家の1人とされているイェンセンとの事で、ドライヤー自身がこの作品を文化映画として制作したら面白いんじゃないかと思って創作したらしい。この作品は劇性が高い映画と感じるが、正直ドキュメンタリーな雰囲気もある。筏の中に白い十字架をまとった棺が2台置いてある浜辺のシークエンスは印象的に残る。この映画はタイトル通りフェリーに間に合うようにバイクをにけつする男女の姿を延々と映している。途中でガソリンを補給したり、バイク等人物描写等背景のカットバックが非常に巧みで驚く。またカメラも忙しく、被写体のクローズアップやクロスカッティング及び四方八方からのカメラワークで緊迫感を増す演出がすごい。また一瞬だが、車の中に乗っている男性が死神のように頬が痩せこけていて、不気味だった。そのサプライズ的な演出も個人的には気にいっている。そしてそれを暗示させるかのような質疑の終わり方、その前に起こったとある事件が全てを物語っている。これは短編ながらドライヤー作品の中でも傑作だと感じる。

「トーヴァルセン」
本作は美術史上の作家を取り上げた唯一のドライヤー作品であり評価の高い1本だ。彼の「奇跡」の美術設定などを見てみると、監督自身かなり美術に深い愛着やセンスを感じ取れる人物だろうと勝手ながら思う。なので、こういった作品を短編で作れたんじゃないかなと推測する。ちなみにタイトルはベアテル・トーヴァルセンの名前である。余談だが彼の名前を取った美術館がコペンハーゲンにあり、今現在でもあるそうだ。この映画は彫刻の造形美が非常に写し出されていて、興味深い。よくよく考えると彼の長編映画には様々な彫刻が位置づけられていたと気づく。やはり果物を手に持った女性の真っ白な彫刻のショットが魅力的だ。暖かさと人間性の古典的な共通する静けさと画期的なギリシャ女神像は、非常に美しく繊細で、職人技だなぁと思う。へーべ像やアモールとプシケの像は心のそこから美しいと思う。肉体的な線が伝えたいことを表し、優美な姿勢が滑らかなリズムを構築させており、非常にリスペクトできる。ときには気がふさいでしまうほどメランコリーな像も中にはあるが、美しさは変わらず……。

「ストーストレーム橋」
本作はシェラン南部の2つの島を結びつけるヨーロッパ最長の橋だったそうだ。多分、今はきっと違うと思うが…。この作品は映像を見る限りドライヤーの凝った演出が非常にわかる。建築的で美術的な構造を軸にしている分、何かしらの主義が主張されているのかと思ってしまう。余談だが、この短編映画は7分間位で、これに関して監督自身45日間の日数をかけていると言うこだわりぶりは圧倒される。きっと入念にテストを重ねた結果だとは思うが、この作品は素晴らしいものになっている分、良い結果だとは思う。橋の下の部分から撮影されたワンショットが非常に心に残る印象的なものだった。まるで絵画の一部を見ているかのような、まさに建築映画の秀作だ。本作が冒頭から美しい原風景が写し出されていて、その中に近代的な建築物がそびえ立っている。そのカットバックや動く被写体をカメラが絶妙で綺麗だ。青空の描写に川辺の描写、草木青しげる草むらや列車が映される。そしてデンマークの国旗が刺さったボートが画面に登場する。そして激しいオーケストラのサウンドが臨場感を与える。やはりこの手の作品のモノクロームの美しいコントラストは見ていてため息が出る。そして複雑に設計された橋の技術的な面も垣間見れて、非常に素晴らしい短編映画だ。またロングショットで橋を捉える空撮は圧巻だ。まるで別の宇宙を見ているかのような感覚に陥る。そして演出なのかわからないが鳩が飛ぶ描写などが一瞬映るのも個人的には好きだ。それと釣りをする男性の描写や、機関車の先頭部分をクローズアップしたり、なかなか面白い演出もある。素晴らしい。

「城の中の城」
本作はシェイクスピアのハムレットの舞台となったクランボー城を舞台にしているらしく、1947年時点ではまだ記録映画としては誰も作っていなかったそうだ。とはいってもデンマークでの話だが…。この作品は短編ながらに大赤字を出したらしく、なかなか大変だったそうだが、共同監督として何とか制作できたらしい。やはり左右シンメトリーに近い城の中の構図の美的センスには圧倒される。まさに西洋らしい美術の塊を見せつけられた一部始終だった。海峡を挟む対岸のお城の冒頭の描写は美しい。そして空撮やロングショットが入り混じり、城の解説が始まる。中世の地下室の中が個人的にはすごく面白い構図だった。6本の柱が聳え立ち、それが城を支えている。そして井戸もある。
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