ヨウ

ルームのヨウのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.2
長い間監禁されていた親子が決死の脱出を試み、外の世界と融和していく。まず設定が異常だった。17歳の時に男に誘拐された少女が出産を経て息子とともに閉ざされた部屋での生活を強要される。こんなエゲツない状況なんてありえるのかと驚くしかなかった。親子の連携を通じてついに二人は救出される。しかし時とともに変わり果てた家庭環境や過熱するマスコミの注目に苛まれ、母親は精神に支障をきたしていく。「なんで自分だけがこんな目に…」という蟠りが湧き起こり、家族らとの衝突が勃発する。救われてもなお心は洗われない。「ハッピーなはずなのに辛い」といった趣旨のセリフが刺さる。そんな母親を芯から再生させるのは5歳にして初めて世界と繋がりを持ったジャック。母以外の愛を知らず空想の世界に耽る毎日だったが、周囲からの多大な愛情を受け、"本物"との接触を通じ、人間的豊かさを培ってゆく。そして母への揺るぎない強き思いが架け橋となり、過去からの完全なる脱却を可能とし、全てを浄化するのである。親子の絆に大いに胸打たれ、我が心も同様に修復された気がする。芯から純粋なジャックの視線を追うことで今住んでいる世界の広大さだとか豊かさだとかを染み染みと感ずることができた。確固たる親子愛で全体を美しく彩った、重く切なくそしてどこまでも温かい感動の傑作である。ジャックたちに明るい未来が訪れることを心の底から願っている。そして私たちもこの世界に存在する無限の魅力を噛みしめながら人生を歩んでゆこう。
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