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ルームのBeSiのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
5.0
約2年間、この時をずっと待ちわびていました。ついに、僕がFilmarksを使い始めて、一番最初にClipした作品である本作の見放題配信が開始されるという知らせを受けました。Amazonプライムさん、本当に本当にありがとうございます。本日2月1日火曜日から見放題配信開始です。以下レビュー。

天窓が1つだけついた狭い部屋で5歳の息子と生活する女性。2人は、ある男によってそこに監禁されていた。息子は母の言葉を信じ、外に世界があることすら知らない。自分たちの未来のために女性は覚悟を決め、脱走の計画を実行に移す。




本作は、42歳の女性エリーザベト・フリッツルが、24年間に渡って自宅の地下室に閉じ込められ、父のヨーゼフ・フリッツルから肉体的暴力や性的暴力を受けたフリッツル事件に基づいて描かれたエマ・ドナヒューの小説「部屋」を原作として制作された。基となった事件と本作を比べると、過酷な環境を過ごした時間の差は大きいが、"とてつもなく長い"ことには変わりない。当事者であるジョイからすれば、それは地獄のようだろう。非情な人間による数々の仕打ちに耐えながら、女手1つで子供を守り愛し育て、"部屋" で生まれたために天窓の外に広がる "世界" を何ひとつとして知らず信じない我が子に、様々なことを教える。一言では言い表せない大変さだ。自分自身が無知であることを自覚しながらも、自分自身が知らないことには納得出来ない、説明されても分からない。純粋無垢な子供との対話がいかに大変なものかを思い知らされる場面も多くあった。こういった形で、7年という長い月日が経過する過程の中で揺れ動く母と子の感情を圧倒的なリアリティで描いている所には心を締め付けられたが、登場人物たちの心理描写の点について他にも心打たれる箇所があった。

親子が揃って家に帰ってから初めての家族との食事。そこで、ジョイの父であるロバートは息子ジャックの顔を見たくなさそうな素振りを見せた。これは、至極真っ当なもの。なぜなら彼の思いは極めて人間的な感情に支配されているからだ。従って、レイプによって生まれた子供は果たして将来幸せになれるのか、誰からも望まれず誰からも愛されていないのではないかという問いを投げかけたリポーターは、母親ジョイに、現在の一般的な見方としては望まぬ母親が望まぬ子どもを育てる義理は無いし、子供のためにもならないという皮肉な事実を伝えたのである(あの場でこれを伝えるリポーターの神経がどうかしてるんじゃないかとは思いましたが)。しかしこの映画の救いとなる結末には意外性があった。ジョイは、自分がジャックの母親であることを受け入れたのだ。

ジョイ: "よくないママね"

ジャック: "でもママだよ"

‪ジョイ: ".......そうね。ママよ"

未熟だけれど、母親でありたい。未熟だけれど、あなたを一生涯見守り続ける存在でありたい。だからこの際、愛してるなんて言葉は要らない。ジョイの心の底からの思いに応えたジャック。このシーンで溢れ出る涙が止まりませんでした。この会話で分かるジョイの勇気そして覚悟。そんな彼女に感情移入し、これから2人の一層の幸せを願いたくなりました。そしてこの複雑な役柄を演じたジェイコブの天才的な演技はもちろんのこと、アカデミー主演女優賞受賞も納得のブリー・ラーソンの演技も本当に素晴らしかった。




私たち人間が住まう地球は、歴とした1つの部屋であり、外に広がる世界にはあらゆる希望や可能性、発見がある。自分たちが今生きる豊かな環境を貴ぶことの重要性を痺れるほどに感じさせてくれる素晴らしい作品でした。この映画こそが、A24史上最高傑作であり、僕の人生史上最高の一本です。
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