HicK

ルームのHicKのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.4
《エイリアンになった僕と、弱くなった隊長》

【"窒息感"】
"へや"が生み出すあまりの閉塞感に「これいつまで続くんだ…」と見ているのが辛くなった。息が詰まりそうなほど狭い2人の世界。逃げられない恐怖が根底に広がっていた。ただ、そこからが今作の魅力。

【エイリアン】
外の世界へ脱出し、全ての物を怖がるジャックはまさに"宇宙から来たエイリアン"。階段の降り方さえ知らない。彼のセリフでもあったように「別の惑星に来て、未知の物体や宇宙人と接している感覚」が直に伝わってくる。ママしか知らない彼にとって誰が良い人なのかすら分からない。何が愛だか分からない。そんな彼が周囲の優しさに包まれながら成長していき、バァバに髪を切ってもらった時の「love you, grandma」の言葉。母以外の愛情に初めて応えたこのシーンに泣かされた。

【隊長】
一方、絶対的な存在であったママは外の世界へ出ると弱い人間になってしまう。当時のままの実家の部屋が「こうなるはずではなかった」という気持ちを抱かせ、周囲の反応が彼女を情緒不安定に追い込んでしまう。怯えながらも新しい事に興味を示し吸収していくジャックと、後退してしまう弱いママの対比が切なかった。

【キャスト】
ジェイコブくん、本当に素晴らしい。「ワンダー」でも魅了されたが、今作も演技だと思えない自然さがとっても良かった。リアクションの一つ一つがリアル。

そしてママ役のブリー・ラーソン。"へや"の中でのリーダーのようなママから、外の世界へ出た一人の弱い人間という幅を見事に表現していたと思う。この絶妙な変化が秀逸だった。納得のアカデミー賞受賞。

【総括】
前半後半で2つの異なる映画を見たような気分になった。印象が全く違う。守るために戦っていた隊長。監禁されていた少女。その2つの事実が手に取るように伝わってきたママの変化が素晴らしかった。そして、ジャックを通して環境が与える影響が強く伝わってきた。

なにより、あのラストシーンが好き。
ネタバレ↓































【決別】
ラスト、"へや"に戻ったジャックが「(へやが)縮んだの?」と言ったように、自分にも信じられないぐらい狭く感じた。"へや"に戻りたいと思っていた彼が「やっぱりここじゃない」と決別できた瞬間。最高の終わり方だった。

ママ目線で考えると…。目視する事で改めて「乗り越えた」という実感。大きな傷だったと再認識する反面、意外とちっぽけにも見えるという矛盾。過去との決別を果たし新たな人生へ。そして1%の「ありがとう」なのかな。

そんな描写から色々連想。シーンの意味とは少しズレるが、「大きな憧れ・失望」など良くも悪くも自分を縛っていたものが、客観的に見ると(もしくは、乗り越えてしまえば)それほど大きくもなかったという、自分にとっては、そんな事も連想できるメタファーだった。劇中の事件はまったく"ちっぽけ"では無いが、これからの人生ほど大きくは無い。そんな事も思った。
HicK

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