Stroszek

ルームのStroszekのネタバレレビュー・内容・結末

ルーム(2015年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

17歳で誘拐・監禁されたジョーイが信じられないほど頭がいい。

まず、誘拐犯に「オールド・ニック(悪魔)」というあだ名を付け、決してジャックとの接触をさせず、ジャックに彼を父親と認識させない。また、外界に出るために絨毯に巻いたあと、ジャックが死んだふりをしているのがバレないよう、「触らないで!」と誘拐犯に言うのだが、これまでずっと頑なに触らせなかったので、誘拐犯は怪しまない。

「本当に必要な物」しか差し入れを要求できない状況で、ジョーイが求めたのは「絵本」である。ジャックに読み書きを覚えさせるためだ。ジャックは狭い部屋から一歩も出たことがないのに、明瞭な言語を話し、言葉により世界を把握する能力を持っている。ジョーイの教育の成果だ。

また、健康管理のために彼女はビタミン剤をリクエストしていた。17歳で攫われたことを考えれば、驚くほどの聡明さである。

彼女が大人の言葉で話しかけたおかげで、"shed"(納屋)という単語を覚えたジャックは、女性警官に適切なヒントを与えられた。

ジャックが外界に出たあと、最初に接触した警察関係者がこの女性警官だったことは彼が出会う「幸運」の一つだ。彼女による懸命な聞き出しがなければ、ジョーイの発見は遅れたか、助からなかったかもしれない。女性同士の知恵が壁を乗り越え状況を打開した。シスターフッドを感じる瞬間である。

この映画は、こういう事件に遭遇した被害者の非を責めるような質問を絶対にしてはいけないと教えてくれる。テレビ局のアンカーが、「生まれたばかりのジャックを病院の前に置いていってもらったほうが、"ノーマル"な子に育ったんじゃない?」と問いかけるのだ。これを機に、ジョーイは自分を責め、自己嫌悪に駆られることとなる。

さまざまな形で犬が出てくる「犬映画」でもある(「誘拐犯が油断させるために使う」「ジャックがラッキーという犬を欲しがる」「ジャックが外界で初めて話しかける相手が犬を連れている」「ジョーイの母の再婚相手がシェイマスという犬を飼っている」)。また、ジョーイの部屋に貼られたディカプリオの写真と母の再婚相手の名前で「レオ」が2人も出てくる、レオ映画でもあった。

「強さ」という言葉が何度も出てくる。ジョーイの忍耐強さ、ジャックの勇気、ジョーイの母とパートナーのレオの理解と受け入れる強さ、それらがなければ彼らは生き抜けなかっただろう。

誘拐犯の言葉で耳を疑ったものが二つある。「誰が電気代(power bill)を払ってると思ってるんだ?」家族を形成し、自分が大黒柱のつもりなのだ。しかしこの言葉は、現実世界において、監禁した女性にではなくても家父長によって家制度に閉じ込められた配偶者や扶養家族に投げかけられることがある。依存的存在形態を余儀なくされた女性は、この言葉により黙らされる。女性の精神的・経済的自立は大事だと実感させられた。

二つ目の酷いセリフは、「考えることはお前の得意分野じゃないもんな」。しかし彼は、ジョーイの考え抜かれた計画により、出し抜かれることとなる。

これは強く賢明な女性が思考と信じられないほどのタフネスによってサバイブする映画なのだ。

[鑑賞メーターから転載]

2015年カナダ・アイルランド。原作はエマ・ドナヒューの『部屋』(2010年)。前半は狭い部屋に監禁された生活、後半は脱出してから母子が外界に適応する様子を描く。母親が息子の健康のためにビタミン剤を入手しているのだが、十代後半で監禁されたことを考えると驚くほど聡明。狭苦しい部屋に閉じ込められた母子の生活が愛情に溢れていたのに、自由なはずの男の自宅は荒涼としており、対比の妙を感じた。「犬を飼っている人に悪い人はいないことはないんだが、大体はいい人である」というのを飼い主に悪人1、善人2の比率で見せている。
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