LalaーMukuーMerry

ルームのLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.7
私はこの作品に登場するママです。17歳の時、行方不明となりました。ある部屋に閉じ込められて逃げることができなくなってしまったのです。
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閉じ込められて2年目の年に、私はその部屋で一人で赤ちゃんを産みました。男の子でした。ジャックと名付けました。ジャックが生まれてから世界が変わりました。私は懸命にジャックを育てました。その部屋から外には出られないけれど、子供の成長に必要なものを、私を閉じ込めた男に要求したのです。
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その男は、毎週末になるとやって来てベッドルームで一晩過ごして翌朝去っていきました。ジャックが生まれても、男は子供に会おうとしませんでした。来るときは一週間分の食料と私が要求したものを持ってきてくれましたが、子どものおもちゃや絵本はしぶしぶそろえてくれる程度でした。
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私はジャックにパパという言葉は教えず、親はママ一人というふうに育てました。
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ジャックは5歳になりました。絵本やTVでいろいろな言葉を覚えましたが、普通の子なら誰でも知っている言葉を肌で感じることができません。花、木、森、空、山、風、ネズミ、犬、道、車、家、町、家族・・・ジャックにとって世界は私とこの部屋だけ、それが全てでした。
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このままではいけないと感じた私は、ジャックをこの部屋から外に逃がす計画を立てました。親子二人で逃げるのは不可能だけど、ジャック一人ならうまくいきそうな方法を思いついたのです。ジャックにその方法を教え、何度も練習を繰り返しました。外の世界を知らないジャックは始めはとても不安そうで嫌がりましたが、素直に従ってくれました。そして決行の日・・・ 
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日本でも同じような事件がありましたよね。あの事件のこと、衝撃を覚えた記憶がよみがえりました。
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実話をベースにした話の前半、とても引き込まれます。けれど、この作品の優れたところはむしろ後半、その後の二人を丁寧に描いているところ。凶悪犯罪の被害者とその家族(ジャックの祖父母)がうけるストレス、そのために生じてしまう祖母と母の衝突・・・、そこから立ち直れたのは、ジャックを思う母と祖母の愛情が深かったから、ジャックの家族への信頼が強かったから。
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監督は、愛情を描きかったのです。だから下劣な男は全く眼中になく、徹底的に描かれません、描くに値しないから。
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普通の生活が落ち着いてきた頃、ジャックが行きたいと言い出したあの “部屋“。過去とのけじめをつけて、二人はこれから少しづつ前に進むことができるのでしょう。
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泣きました。