やし

ルームのやしのレビュー・感想・評価

ルーム(2015年製作の映画)
4.6
「長年監禁されていた親子が外の世界に出たらどうなるんだろう」


かなり気になっていたこの作品。


やっぱりマトモにはいられないんだろうか。
閉鎖的な空間にこもってしまうんだろうか。
親子の関係はどうなってしまうんだろうか。



感想。
ただ、素晴らしかった。


単なる監禁脱出ものだったら、凄惨な監禁生活を散々見せられてから、脱出計画、いざ実行したら二転三転しつつ、やっと脱出っ!そのままエンドっ!となるところだけど、

本作の場合は長年監禁されていた親子が解放されたあとの生活に主軸を置いているから、狭い部屋だけの世界は上映時間の半分もないぐらいで、残りは部屋の外の世界。
脱出計画のドキドキもただの通過点。



…そして、5歳の子が生まれて初めて見る世界。
天窓から見ていた狭い空ではない、果てしなく広がる空と世界。
そこは浦島太郎状態とは比べ物にならないぐらい戸惑いの連続でまさに"宇宙空間"。
「あのベッドがいい」
「"部屋"に戻りたい」

母も"部屋"から"普通の世界"に帰ってきたことで、望んでいた筈の"普通の世界"に押し潰されそうになる。



これは期待以上だった。


この映画のテーマは皆さん言うとおり"親子愛"だろうけど、個人的にはこの映画のパワーの源は子供だと思う。

純粋さ、適応力もそうだけど、何より子供が凄いのは「可能性」で、大人は絶対に敵わないし、尊敬としか言いようがない。


『キャロル』のルーニー・マーラ、『リリーのすべて』のアリシア・ヴィキャンデルといい、本作のブリー・ラーソンも素晴らしい演技でこの世代は一際輝いている。

そして、その彼女とタメを張るほど、子役のショーン・アレン君は凄かった。

彼女やこの子の演技には全く隙がない。


 
事件にもなった実話をベースにした本作だけど、実話の方は相当に恐い。

おそらく"一人じゃなく、そこで生まれた子供と一緒に監禁されていた"というところにインスパイアされたんじゃないかなと勝手に予想したけど。
知っている人は分かるだろうと思うけど、この事件をベースによくこんな感動できる作品を作ったなと。



"歯"や"髪の毛"のシーンは当然ながら、親子のなにげない会話はどれもとても秀逸だし、祖母、レオの優しさも救われる。

「よくないママね」
「でもママだよ」

本作が"愛情"を描いた名作のひとつとして並ぶのは間違いないと思う。

子供に興味がない方や、育児に疲れている方にも是非観てほしい作品です。
やし

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