若い女性が何年も地下室などに監禁され、レイプされ、そのレイプ犯の子供も生んでいた、という事件。なんて恐ろしくおぞましい。なんてひどい。そんな事件のひとつをインスピレーションとしてかかれた小説の映画化。と聞くと、犯罪ものの映画か、恐怖の映画か、センセーショナルな扱いの映画か、などと想像したが、本作はそういうものではなかったのが驚いた。
ハリウッド大作などではない小品のようだが、アカデミー賞にノミネートされていることから鑑賞したが、7年間監禁された女性役の女優さんの演技は秀逸で、主演女優賞を受賞してもおかしくないほどだった。そしてなんといっても素晴らしかったのは、彼女の5歳の子供、ジャック役の男の子。この映画が、ただの犯罪映画に終わらず、美しく繊細に詩的なまでに人々の心の動きを描き出しているのは、この少年の視点で物語が進んでいくからである。
たった3メートル四方の裏庭の小屋、窓もなく高い天井に小さなスカイライトがあるだけの場所に、19歳の時から監禁され、2年後に妊娠してしまった女性の、かけがえのない子供。髪を長く伸ばしていて、女の子のように見えるほど美しい子供。この子のために母親はその小さなルームを彼の「世界」とし、徹底して彼を守る。心身の健康を保つためにエクセサイズをし、ビタミン剤をのみ、卵の殻で工作をし、歌をうたい、物語を読み、暖かく愛情にあふれる二人の世界をつくっていく。彼にとってテレビの世界はニセモノ、ルームにあるものだけが本物。それでも毎夜ルームを訪れる犯人の存在は見ている私たちを凍りつかせるし、彼女がとうとうジャックの協力をえて脱出計画を実行するとき、失敗する確率の高さに恐ろしい気持ちになる。
しかし映画はそこで終わらない。二人にとっての本当のチャレンジはその後の社会復帰で、その過程は言葉よりも、ジャックの表情や行動で多く語られる。ジャックの無垢な強さと優しさに共鳴し、すっかりその世界に引き込まれる。
ドラマ・スリラー映画の名作。