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ザ・ダンサーのpieのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ダンサー(2016年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

鑑賞後の満足感は高かった。
カラー付きの照明で初めて踊ったシーンは鳥肌が立つほど最高で、あまりにも美しい。

中盤からはとにかくロイが痛々しくて見てるのが辛い。私も趣味程度に絵を描くけれどそれでも辛い時があるのに、芸術に命そのものを懸けていたロイの日々はどれだけ辛いものだったのかわからない。胸が引き裂かれるようだった。ガブリエルとの関係もとても魅力的だったが、やはりルイとの関係が一番心に残った。

ロイは最初から、衣装やダンスこそが自分の価値の全てで、自分自身には何も無いと思っている。思い付いて実行しているロイこそが価値のある存在なのにとにかく自己評価が低い。
だからどんなに身体が痛くても、心が傷ついても、踊る事をやめない。やめられない。

ルイとロイの関係はとても切ない。
お互いが必要で、手を伸ばし合うのにいつもどうしても指を掠めて掴めないような、そんな歯がゆさがある。
二人とも一人では脆くて立っていられない。
だけど手に手を取り合うことも出来ない。
劇中寄り添って眠る2人のように、ほんのすぐそばにいながらどこか遠い。欠けている部分が同じだから、お互いを埋め合うことが出来ない。

ルイはまるでロイのもう1つの人格のように、そばで何も言わずにロイを見ている。
ロイがいつも最後に頼るのはルイで、自己否定が極まって心が壊れそうな時、ロイがありのままでいても(衣装も踊りもなくても)これを否定せずそばに居てくれると信じられる唯一の存在だったのだと思う。
ルイはロイのたったひとつ、脆くてほんの些細なことで壊れてしまいそうな小さな自己肯定を表したキャラクターだと思った。

踊る以外で人前に出ることをあれだけ嫌がっていたロイが、ラストに自ら舞台を降りて観客と触れ合う。本当に嬉しそうに笑う。
揺らいでは、ルイ、ルイと子供のように名前を呼んで縋っていたロイが、最後にひとり穏やかに微笑んでいる。
彼女はもう自分の外に自己肯定を求めなくてもいい、自分の中にそれを見つけられたように思う。


ルイに関して、彼がなぜ最後ああなったのか答えは分からないが、個人的な感想ではロイに自分が必要でなくなる未来を予感して、絶望したのではないだろうか。人の字のように持ちつ持たれつ、一人では立てない二人が絶妙に支えあっていたなら、どちらかが一人で立ってしまったら、立てないままのもう一人はいとも簡単に倒れてしまう、そんなイメージ。
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