むーしゅ

ニューヨーク 眺めのいい部屋売りますのむーしゅのレビュー・感想・評価

3.6
 Jill Ciment著"Heroic Measures"を原作とした作品。Heroic Measuresとは辞書をひくと、医学用語で患者にとって非常にハイリスクだけれどそれ以上に良い選択肢が無い最終手段ということだそう。しかしこの場合はその意味では無く、単にHeroic=勇敢な という意味から、物語最後の決断を指しているんだと思います。ちなみに映画の原題は"5 Flights Up"5階上がる、ずいぶんとっつきやすくしましたね。階段使わなきゃなぁ、健康のために。

 ブルックリンを一望出来る好立地のアパート最上階に住む老夫婦と1匹の犬が、エレベーターが無いことを理由についに引っ越しを決め、家を売りに出すという話。過去と理想に取りつかれる夫アレックスをMorgan Freeman、未来と現実を見つめる妻ルースをDiane Keatonを演じています。愛犬の治療ひとつをとっても意見の食い違う2人だけど、互いに尊重しあっている関係性が非常に心地よく、時々回想として戻る出会ったばかりの二人から何も変わっていない距離感にすごく憧れましたね。特に、Richard Loncraine監督とMorgan Freemanが二人で決めたという相手役Diane Keatonのかわいいおばあちゃんっぷりがすごくてこれは絶対あこがれる人多いはず。この人ほんと歳とらないねぇ。またCynthia Nixon演じるリリーもいい味を出してます。老夫婦の会話だけでは何ともわからないけれど、ここはやはり世界の中心ニューヨーク。競売のスピードの速さも相まって、老人がニューヨークで暮らすことによる速度の違いが伝わってきました。リリーこそニューヨーク。アレックスが「あの数日間はローラーコースターに乗っているようだった」と言ってましたがまさにそうなんだと思います。

 個人的に好きなのは、同時に走らせていたテロの話。ニューヨークとテロは切っても切れない関係ですが、なかなかセンシティブな話題。犯人が捕まるところで若い世代が過激な発言をする中、アレックスだけは「子供じゃないか」と一言。自分自身も家を売る上で値段に変動がありそうだったり何かと振り回された事件であったにも関わらず、メディアが恐怖をあおっただけなんじゃないかと思わせるかのような、ちょっとシニカルであっけない終わり方が逆に印象に残りましたね。ちなみに本当関係ないんですけど、アレックスの発言を聞いた瞬間「キャプテン・アメリカ」の"I'm just a kid from Brooklyn."を思い出してしまいました、ブルックリンだけに。

 最後に散歩から帰ってくるところで、若い夫婦が引っ越してきたのを見つめるシーンがなんとも良いですね。40年以上も前のことでも、その二人に自分たちの思い出を重ねたんでしょうね。
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