持家を売りたい老夫婦のドタバタ珍道中。
正直お話にはそこまで深みを感じなかったのだけど、長年連れ添った老夫婦ならではの関係性や美しいニューヨークの街並みといった、映画内で描かれる生活には魅力を感じました。
夫婦が若い頃に購入したアパートにはエレベーターがないので、毎日5階まで階段を昇り降りしなければならず、どんどん老いていく先の生活を考えると辛い。
そこで夫婦は住み慣れた我が家を手放す決意をするけれど、そんな折に老犬がヘルニアにかかり高額な手術費用が必要となるうえに、近場でテロ事件が起こり相場が下落してしまう。
私は夫婦の下した最終決断に違和感があったので、売買の行く末についてはいまいちピンと来なかったけど、この騒動の中で描かれる夫婦の思い出描写が凄くいい。
ふと回想シーンで挟まれる二人の馴れ初めや、初めて家に越してきた日の事、犬が家に来た日の事、子供が産めず苦しむ妻と夫とのやり取りとか、色んな出来事を重ねた末に穏やかに歳を重ねた夫婦の姿に何か泣きそうになった。
基本的に穏やかで優しい物語という印象だったけど、暗に差別的な風潮を否定するような強いメッセージが含まれていたのがちょっと意外。
黒人と白人の夫婦である二人が結婚に反対されたエピソードや、テロ事件の犯人であるイスラム教青年が酷いことを言われて黒人である夫がその姿に我が身を重ねたり。
本当にさらっとメッセージ性を持ってくるので驚いたけど、家の売買というストーリーの中ではいささか唐突な感じもしたかな…。
雰囲気はとても良いし、優しい気持ちになれる映画ではあるけど、結末への違和感と「なぜそう決断するに至ったのか」っていう決め手がいまいち弱い気がしたのがちょっと残念。
