プロパガンダのはずの『東京上空三十秒』にリベラルな印象をもち、脚本がダルトン・トランボということで、トランボに関心を持ちました。いわゆるアカ狩りで、ハリウッドテンと名付けられた脚本家、ディレクター10名とブラックリストに載せられた数千人がハリウッドから締め出された時代、トランボはゴーストライターになったり、偽名を使ってアカデミー賞を二度受賞します。実力を見せつけながら、ハリウッドと闘う半生を描いています。
ハリウッドをはじめ、アメリカの思想の自由の無さは戦時中の日本みたいで薄気味わるい。労働者に肩入れすることイコール、となる偏狭さは資本家天国のアメリカならでは。多様性を謳いながら一枚岩でいることを目指す国民性を常々感じている。ヨーロッパ諸国はじめ世界の独裁者のいない国とはまったく異なる。
自分が干されないように保身に走る者も当然いる。
脚本家はペンネームを使えるが、俳優は顔とイメージが命だから、転身するのも仕方ない。
ジョン・ウェインとの従軍地を尋ねるやり取りはおもしろかった。愛国心が強く保守的なハリウッドの団体の長となったジョン・ウェインに、トランボ他のハリウッドテンの脚本家が「われわれも愛国心を持って戦争で闘った。ところで愛国心の強いあなたはどこで?」ジョン・ウェインは徴兵免除されていた。
トランボの知的で洒脱なお人柄から産み出された数々の名作。背景にはこんな辛苦があったことを知った。家族の無償の愛情がトランボを支えていた。干された脚本家たちとの横のつながりはもちつもたれつだが、ゴーストライターとして、トランボにB級作品の量産を依頼し続けたキング兄弟のビジネス以上の信頼関係があったからこそトランボは腐らなかったんだとも思う。
本作観て、カーク・ダグラスがトランボに脚本を依頼した『スパルカタス』と、クセあるオットー・プレミンジャー監督の作品に興味をもちました。二人ともハリウッドのやり方に反抗しています。
(Amazon prime 有料レンタルにて鑑賞)