しんご

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男のしんごのレビュー・感想・評価

4.5
映画好きとしてはあの名作の影にこんな壮絶なドラマがあったのかと驚嘆すると同時に、不屈の精神で体制と闘い家族を守り抜いたダルトン・トランボの半生に涙を禁じ得ない。

共産党員のため1940年代の「赤狩り」で職を追われた「ハリウッド・テン」の中心人物であったトランボは後に偽名で「ローマの休日」(53)と「黒い牡牛」(56)を執筆する。そしてこの2作でアカデミー賞に輝いたとんでもない天才脚本家なんだけども、日常から言葉のプロであることを感じさせるウィットある会話がたまらない。「ママは口数が少ない。だからここぞという時に大事な話をすると皆ちゃんと聞くんだ。これは凄い技だ」って娘に言うシーン1つ取っても人に「聴かせる」言葉選びをする本作の脚本術の細かさには恐れ入る。

赤狩り旋風の下自分の名前で執筆ができないトランボはB級映画の糞シナリオを大量にリライトすることでまず生計を立てる。作家性は発揮できず作品も選べずにアイデンティティが埋もれ、家族も守り切れない中で次第に追い詰められ苦しむトランボの「闇」の部分がここでしっかり描かれていたのは素晴らしかった。この要所要所でトランボに追い撃ちをかけるゴシップ記者ヘッダ・ポッターがとにかく憎たらしい。ポッターを演じたヘレン・ミレンは本作でゴールデングローブ賞にノミネートされたが、それも納得の蛇みたいに狡猾で粘着質な芝居は圧巻。

トランボの周りには敵だけでなく味方もいるがその面々もとにかく脇で存分に輝く。トランボを実名起用し彼のキャリア復活に寄与したカーク・ダグラスとオットー・プレミンジャー監督の男気にはもちろん惚れるが、個人的にはB級映画会社社長のキング役のジョン・グッドマンがお気に入り。政治的な思想は何も無くあるのは「金を稼ぎ旨いモノを食べていい女を抱くこと」という彼の主義は俗っぽくて最低な筈だけどなぜか憎めないのはグッドマンのキャラクターに依る所が大きい。トランボを雇うなら新聞に載せて逮捕するぞと脅迫する赤狩り一派に「書いてみやがれ!どうせウチの映画観る奴等は字が読めねぇ!」って言いながらキングがバットを振り回シーンはかなり好きだった。

「スパルタカス」(60)を観た後の寝室でのダイアン・レインの芝居にはこちらも目が潤み、「闘い」の果てにトランボが行った受賞スピーチのシーンでは完全に泣けた。
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