あーさん

ファブリックの女王のあーさんのレビュー・感想・評価

ファブリックの女王(2015年製作の映画)
3.8
ドキュメンタリー・タッチなのでネタバレ気味です。ご注意!



”布”が好きである。
洋裁は得意ではないので、ただ好きな柄の布を買って集めているだけなのだが…。
気が向くと手縫いで小さなものを作ったり、キャンバスに貼って壁に飾ったり。好きなデザインの布に囲まれていると、何故だかとても落ち着くのだ。。

リバティ、ソレイ・アード、ウイリアム・モリスはお気に入りの筆頭だけど、マリメッコも好きなテキスタイルの一つ。
そんなこともあり、劇場公開を見逃してから気になっていた。

アルミ・ラティア。
ウニッコ柄(けしの花)で有名なマリメッコというブランドを世に送り出したフィンランドの女性実業家の草分け的存在。
ドキュメンタリー風に彼女の人生を、劇中劇のような形で(監督曰く)フィンランドを代表する女優ミンナ・ハーパキュラに演じさせるという凝った作りになっている。

マリメッコはかわいいのに今作の彼女のキャラクターが嫌いというレビューをいくつか読んだので、心して観ることに。。

戦争で故郷を追われ、3人の弟を失くし、ほぼ裸一貫から無我夢中に夫の会社の為に頑張ってきたアルミだが、前半、とてつもなくワンマンで時に疑心暗鬼になったり精神的に不安定になったりする彼女の様子は観ていて辛い。周りの家族や従業員も彼女に振り回されているような印象を受ける。極度の不安からお酒が手放せないアルミ。
話しているとどんどん話が大きくなって、大風呂敷を広げてしまう。理性的になれないことも多々あり、ビジネスでの失敗も数知れず。そんな彼女は社交的でもあり、臆病でもあり、、一筋縄ではいかない性格だ。
故に、劇中でアルミを演じるマリア(ミンナ・ハーパキュラ)も戸惑いを隠せない。

男性が観たらあまりの態度や暴言にきっと、夫のヴィリヨ(ハンヌ=ペッカ・ビョルクマン)に同情してしまうことだろう。

そんな、人として家庭人としては酷い有様だったアルミ。
彼女と友人関係で会社の役員まで務めて内情もよく知っていたヨールン・ドンネル監督は、一体アルミの人生を描くことで何を伝えたかったのだろうか?

特典映像のインタビューの中で監督はこう語っている。
働く女性のパイオニアでもある彼女の姿を通して苦労しているすべての女性達への共感を世の中に知らしめたかったのだ、と。

花束を集めるように人を集めるアルミだったが、過激な言動も多い。「男は信用しないで」「アメリカを征服する!」などの台詞にはドキッとさせられるし、客人の前でレコードを叩き割るのは。。
とにかく仕事一筋で周りが見えなくなる姿はある意味滑稽でさえあるのだが、彼女が本当はひどく孤独であることを象徴している。
”我儘な人は孤独なんだ”という台詞をどこかで知ったが、私は自分を持て余した彼女にその言葉が当てはまると思った。

一か八かの賭け勝負のような会社経営の判断を一手に担っていた彼女のストレスは並大抵なものではなかったはず。。

パーティーで知り合ったジムとのシークエンスは彼女が唯一女性でいられた時間ではなかったかと思う。アルミがT.S.エリオットの「荒地」をジムに朗読してもらうシーンはとても好きだ。。

下着一枚で従業員の前に登場したり、ゲストの前で動物の鳴き真似
をしたり、まぁ色々とやらかしてくれるアルミだが、私は憎めないというか、めちゃくちゃ人間らしい人だなと思った。もちろん、家族としては勘弁仕りたいが。。笑

自分の人生について、日記では”特別なことは何もない。ひたすら働き続けただけ…真実の愛は見つけられず…”などと書いているアルミだが、ドキュメンタリーでは”過酷な気候や環境が自分には必要だった”と肯定してるところ、そしてラスト、おそらく故郷カレリア(今はロシア領)の美しい海辺に佇むアルミの後ろ姿…
”バックに静かに流れるのはベートーベン第九の歓喜の歌”
から彼女が自分の生き方を決して否定していないことがわかる。

大きなものを産み出す時、その人の人生は並大抵ではないということをまた一つ知ることとなった。

マリメッコのものを身につける時は、今まで以上に気合が入りそうだ。




”私は生きる!”





*ファッション・ショーのシーンがとても素敵♫そして最後までアルミの人生を生ききったミンナ・ハーパキュラの演技が素晴らしい!!
→Filmarksさん、主演女優の名前がクレジットされてないって…⁉︎
あーさん

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