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スリー・オブ・アスのakrutmのレビュー・感想・評価

スリー・オブ・アス(2015年製作の映画)
3.8
フランスのコメディアンであり、俳優であるケイロンの初監督作品。イラン革命が起こる前のイランで反政府活動によって投獄されたヒバットの人生が主題である。自分の信念を曲げずに過酷な拷問に耐えたり、イラン革命後も民主化運動を続けるが、生命の危険を感じて妻・息子とともにフランスに移住し、パリ郊外の町で社会活動を行う様子が、コメディアンだけあって、ユーモアを交えながら印象的に描かれている。

この映画で描かれている主人公ヒバットは、ケイロンの実の父である。つまり、本作はケイロン監督の父の伝記的映画であり、父役を子供が演じていることになる。このことを知らずに映画を観ていたが、映画の後半で息子が両親に向かってこれからケイロンと名乗るよと話すシーンが出てきて、このことを知った後は、ケイロンが父親を尊敬する気持ちが伝わってくるようで、心を動かされた。まだ存命中の父親にとっても、自分の息子が監督した作品で自分を演じたのには、さぞかし嬉しかったであろう。そういう意味でも、親子愛にあふれた映画であると言える。

しかし全編がフランス語であった点には少しがっかり。前半のイランでのシーンに違和感が残るとともに、フランス語がペラペラなのに、移住直後にフランス語をマスターするのが難しいと話すシーンには思わず失笑してしまった。ペルシャ語の音やリズムに独特の味わいがあるだけに、ここには徹底的にこだわって欲しかった。もう一つ残念なのは、ヒバットの人生を忠実に描くあまり、起伏に欠け、淡々と時系列に沿って描くだけの構成になってしまっている点。このせいで見どころがよくわからず、結果としてインパクトに欠ける映画になっている。これらが改善されれば、もっともっと素晴らしい名作になったのではないだろうか。ケイロン監督の今後の映画に期待したい。
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