亘

帰ってきたヒトラーの亘のレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.0
【彼は、本当に過去の人なのか】
2014年ベルリン。テレビ会社をクビになったザヴァツキは起死回生のネタを探していた。すると偶然彼は映り込んだヒトラーを発見、番組に出演させる。ヒトラーは一躍人気コメディアンとなる。

"過去の人"のはずであるヒトラーが、現代社会に生き返り再び人々を魅了する姿を描いた社会派コメディ。街中にヒトラーを突然出没させるアドリブなど大胆な演出も行われていて、ヒトラーと喜んで自撮りする人々やナチス流の敬礼をする人々、ヒトラーを毛嫌いする人々など一般人の反応も描かれている。コメディ作品としてしっかりとした構成になっている上で、そうしたリアリティがちりばめられていることで、描かれている内容が単なるフィクションや他人事ではないことを痛感させられる。

ザヴァツキは、何としても仕事に戻るためにヒトラーを売り込もうとする。そこにきわどい内容で視聴率を上げたいベリーニ局長や、ヒトラーによって局長を下ろし自らがトップに立ちたいゼンゼンブリンク副局長の思惑が重なり"タブー"であるはずのヒトラーが番組に出演する。ヒトラーの弁舌はさすがで、力強くて思わず注意深く聞いてしまう。最初は疑い深かった人々まで彼に魅了され、ヒトラーは一躍人気になるのだ。一方でゲルマン民族の優生思想や危機を煽る手法など政治志向は変わっておらず、彼に恐怖も感じる。

その後とある映像の流出により、ヒトラーはTVを追放される。それでも彼はただでは起きない。復活してからの経験を本にして出版してしまうのだ。しかもこの著書がまたヒットし映画化される。このあたりも、画家を目指しながらも挫折し本を執筆、政治家になったヒトラーのままである。見事局長になったゼンゼンブリンクが、それまでの態度を翻し起死回生を狙って映画を放送したがる姿は、滑稽ではあったけど、これもまた民衆に売れるものを売ろうとするポピュリズムの姿だと思う。

こうして現代ドイツが再びヒトラーに傾倒していく中での終盤の展開は意外だった。ザヴァツキがヒトラーとの直接対決に挑むのだ。ザヴァツキといえば、ヒトラーを発掘しヒットさせたきっかけを作った人物である。しかし彼はヒトラーの怖さに気付いたのだ。一方で人々はまだコメディアンとしての彼に心酔している。最後の最後でヒトラーが放った一言「私は人々の一部なのだ」という言葉とかラストの映像集は、現代にもナチズムの種があることを感じさせた。もしかしたらそれは芽を出しているのかもしれない。

印象に残ったシーン:ヒトラーがコメディで人気になっていくシーン。ヒトラーの映画製作のラストシーン。

印象に残ったセリフ:「彼らの本質は同じだ」「私は人々の一部なのだ。良いこともあった」

余談
・原題は「誰が戻ったか見ろ」という意味です。
・原作は2011年にドイツで出版されヒットした同名の小説です。映画化にあたり街中を歩くアドリブシーンなどが追加されました。
亘