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帰ってきたヒトラーのchiguhaguのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
5.0
個人的には21世紀に造られた映画の中で最も難解で面白い名作映画だと思った。

どういう風に受け止めればよいのか、観た後わからなくなったのだが、それは映画の性質が以下のように対称的な性質を同時に有しているからであろう。

なんとなく3次元の座標を思い浮かべてもらったらよくて、x軸「コメディー」と「シリアスホラー」、y軸「ストーリー」と「ドキュメンタリー」、z軸「映画」と「メタ映画」の3つの軸があると思う。

この3つの軸はどれも、この映画はどっち?と思わせてくれる要素だ。

序盤は完全に「コメディー」映画であるが、最後は恐ろしい描写で結末としている。ヒトラーが軽々しく扱われること自体がとてもスリリングで見たことない映像である。序盤はこうしたタブー性やコメディー、シリアスの軸に混乱させられる。

中盤は、物語だと思ってみていたら、不意にドキュメンタリータッチな映像に切り替わる。ヒトラーのモノマネ芸人だと現実社会で思われる男が現代ドイツ社会の窮状を訴え、リアルにヒトラー(芸人)に激しく同調するドイツの一般人が映し出される。序盤に思いを巡らしてた悩みの根幹である、ストーリーという物自体が揺さぶられる。

後半には、今までの映像内容をヒトラーが書籍として発売し、映画化することになるという話に突入していく。メタ映画的な要素でまたひっくり返される。

これらの3要素にヒエラルキーはなく、場面場面で要素が切り替わる。
例えば、コメディータッチでドキュメンタリーなメタ映画的な場面もあれば、シリアスタッチでストーリー的な映画的な場面もある。

映画の深みが立体的になる。この映画としての面白さはかつて体験したことのない映画体験であり大変魅力的に思った。

ヒトラーというタブーな存在とドイツの現代社会の対比を中心的なテーマとして、話と映像表現によって、見事に3次元的な複雑さを映画にもたせた価値ある問題作であろう。
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