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帰ってきたヒトラーのohassyのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.0
本編を観る前から面白いことはわかっていた。
やっぱりちゃんと面白かった。
何カ所か、吹き出してしまった。

ヒトラーは歴史上の人物の中で、キャラクターアイコンとして非常に強烈だ、多分世界一(次点は北の将軍様かな)。
例えばナポレオンだって誰もが知っているし、相当な人を殺していると思うけれど、時代が古すぎて実感としては薄いし、彼がしたことは一応戦争ということになっているので、ヒトラーに比べれば個性としても薄い。
やはり第二次大戦というのは直近の世界大戦として、たとえ直接は経験していなくとも、僕らの中に生々しいものが存在するのだろう。
マスコミ業界にいるとよくわかるけれど、日本でもヒトラーは相当デリケートなネタです。
だからその分、攻めた扱いができれば刺激的で面白くなる。
しかもコメディとしていじるのだから、存在とのギャップが一層笑いを生む。

そして本作が本当に面白いのは、そこから現代のドイツに切り込む部分。
もちろんそれこそを期待していたのだけれど、いい意味で予想外な手法で現代のドイツの問題をあぶり出しながら、さらにはどのようにしてヒトラーが生まれたのかまでをも炙り出そうとする、実証実験のような作り。
前半の笑いと、そこからジワジワと顔を出す怖さとシリアスさがしっかりと対になって、見事な作品構成だ。
気がつくとヒトラーの言っていること、人格に対して多少なりとも賛同し始めている自分が居たりもして、明確な意思と言葉というものの強さをまざまざと見せつけられる。

ヒトラー役の舞台俳優オリバーマスッチさんの演技と即興力の物凄さが本作の質を担保する大きな要因で、ラストの締め方含めたその他の部分がちょっと稚拙な気もするけれど、もっと早く観ればよかったなと思う。
それにしてもドイツの人々は、この負い目をいつまで抱えながら生きていかなくてはならないのだろうか。
当然日本以上にタブーな存在だと思うけれど、本作のように臭いものの蓋を開いて紐解くことも、少しずつ必要だろう。
それはドイツにおけるヒトラーだけではなく、どこの国や地域でも。
その時に我々は、受け止められる度量を持たなくてはなるまい。
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