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帰ってきたヒトラーのMKのレビュー・感想・評価

帰ってきたヒトラー(2015年製作の映画)
4.0
なんとも実験的というか、丁寧な階層構造と、風刺ともアンチとも言い切れない絶妙な距離感で賛否はともかく、20世紀有数の大人物の仕業を論じていたと思う。

これ日本でやるとしたら誰だろう…誰にしても、ここまで偏りに配慮した描き方をしても少なくとも日本では上映されないだろうな。

敗戦色濃い第二次大戦中の戦時下から総統が現代にタイムスリップするという話。

臭いものには蓋をする。あまりにも有名で悪の権化のようなシンボル、負の遺産が現世に舞い戻ってきたら、大衆はどんな反応をするのだろう?

おそらく頭脳は明晰、何より民衆を魅了し、煽動することにかけては天才的な指導者が現れたら情報の拡散性、同時性、再現性にかけては飛躍的に進歩した現代にあって、あっという間にカリスマとなる可能性も確かにある。

人間が文明人らしく理性的に振る舞えば振る舞うほど裏腹に積み上げられていく本能的な欲望や不満、防衛本能はたまた攻撃性。

そんな闇を白日のもとに晒して、それはとても素直で本質的で決して間違ってはいないと、迷いなくある道を指し示したとしたら…自国民の尊厳と優位性の確保、理想的な民族主義の実現。

なんとかファースト然り、機運が高まり始めている現代の同じような極右的で極めて排他的な思想もそんな指導者が声高らかに民衆を煽動しているだけなのかもしれないなと怖くもなったりした。

私は価値観も民衆と同じだ、ただ計画を示してそれを実現するための行動を取っているだけ…みたいな台詞。
現代においてなんとも既視感が半端なかった。

そういう意味ではマイケルムーアの華氏119も同じような切り口だったけど、真贋はともかく文字通り役者が違い過ぎた。

原理主義的なイデオロギーとそこに淀んだ闇の操作、そんなものを巧みに操り人々の心を揺さぶるアイコンにどう対峙していくのか?そんなスタンスの物語としてはとても面白かった。

ただ、当のアイコンがどこまで再現されているかはわからない…少なくとも2時間で魅了されるようなことはなかった。

まぁ、そこが再現できれば関係者の誰かが指導者になれてしまうのだろうけど、もう少し核心に迫る演説もあるかもしれないと原作を読むことにした。
我が闘争読めばいいんだろうけど。
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