回想シーンでご飯3杯いける

パーティで女の子に話しかけるにはの回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

4.0
2017年後半で最も楽しみにしていた作品のひとつ。ベストムービーにもセレクトしている「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のジョン・キャメロン・ミッチェルが久々にメガホンを取った新作だ。

試写会以降、観た人の感想が賛否両論で、逆に興味津々だったんだけど、まあ確かに観る人を選ぶ作品なのかもしれない。宇宙からやってきたエイリアンの少女がロンドンでパンクに出会って感化されるというプロットだけで僕なんかはもう最高に楽しい気分になる。しかし、考えてみれば、そもそもパンクというフレーズが持つイメージも人によってかなり違うのだろうから、例えば本作に汗臭い青春ドラマを期待してしまうと、かなりがっかりしてしまうと思う。

本作では「パンク」が音楽ジャンルである事に敢えて触れていない。宇宙から来た少女ザンにはパンクの正体を把握できず、それがかえって彼女の好奇心と共鳴する流れになっている脚本が実に上手い。映画としてはパンクの詳細を追及せず、「時計仕掛けのオレンジ」や「ロッキーホラーショー」にも通じる、キュートで倒錯的な世界観を楽しんでしまった者勝ちという感じがする。

死生観もセックスのしくみも全く異なるエイリアンが、パンクを通じて地球人の生き方に感化されていく。僕達にとってあまり面白くない日常や親子関係も、宇宙人から見れば魅力的であるという視点に、少なからず感動してしった。この大局的でユニークな視点は、同じく宇宙人を主人公に据えたインド映画「PK」に通じる物がある。「ヘドウィグ」から一貫する哲学的なセックス描写は本作でも健在。基本的には「愛」の映画なのであると確信する。

一部で不評となってしまったのは、音楽面での魅力が不足している事にも一因があると思う。ミュージシャンであるStephen Traskが作曲し、既にミュージカル版でブラッシュアップされた曲を起用した「ヘドウィグ~」は、音楽面でパンクのみならずグラムロックやハードロック等のエッセンスも加えた名曲が揃っていた。これに対し本作の音楽はパンクの中でもかなりマニアックな音で、特に日本ではウケが悪い系統である。少年エンの部屋にポスターが貼られていたIggy Popや、かつて宇宙人のキャラ設定で活動していたDavid Bowie辺りの音楽を挿入すれば、かなり雰囲気も変わったと思うので、ここは確かに惜しい点かもしれない。