純

パーティで女の子に話しかけるにはの純のレビュー・感想・評価

3.6
「あなたに感染したい」「きみのウイルスになりたい」。想像の1086倍くらいぶっ飛んだ設定と展開で102分びっくりが止まらなかった。それでも、大胆さの中に初々しく瑞々しい感性を潜ませている映画だなあとも思う。パンクを軸にしているだけあって粗っぽいところもあるし、映画として少し安っぽいカットや流れもあるんだけど、その内で鳴り続けている鼓動、音楽を見失わずにいたいと思えるね。

パンクが好きだけど少し内気なエンは、ワルになりきれないふたりの悪友とある日不思議な館に迷い込む。そこにいたのはまさかの異星人…。異性が異星人に思えた頃、みたいな宣伝文句があったけど、エンが恋した相手は異星人みたいな女の子ではなく、本物の異星人、ザン。なんというぶっ飛び設定なことか。とにもかくにもこの出会いをきっかけに、右も左もわからないザンは48時間という制限時間つきで地元の人間たちと生活を共にすることを許される。そして始まるエンとザンの忘れられない2日間。

やってることは滅茶苦茶だし中身なんてないように思えるんだけど、そういう衝動的な命が、この映画でははじけてるんだよね。中身のある人生って何だよ、学ぶことのある人生って何だよって、中指を立ててやりたくなる。そういう思い切りの良い大胆さを呼び覚ましてくれる熱量がメーターを振り切っていた。エンとザンは知っていることがまるで違って、その意味不明さに惹かれていた。きみのことをわかりたいって、それは愛だよね。わかるかわからないかはどうでもよくて、ああ知りたい、ほんの少しでも分かれたら良いのにってそう思うことが、自分の一番真ん中にある、生々しくも澄み切った思いなんじゃないかと思う。それを表現した映像はなかなかに狂っていたけど(笑)

「はじめ、もっと世界は広くて、清潔で、カラフルだって思ってた。それでも、ここは宝石みたいね」。世界に飛び出して希望と絶望を知って、全部欲張ることはできなくて、その残酷さに嫌気がさしても、それでもザンは地球を好きになってくれた。もう二度と味わうことはないかもしれなくても、吐く息までも自由なあの感覚は永遠に受け継がれていく。そんなほんの少しの救いを含んだエンディングだったんじゃないかな。ほろ苦い、なんて言葉じゃ甘ったるいくらいの始まりと終わりで、まるで夢だったんじゃないかと思うくらい短い時間だったけど、あんなに鮮烈な48時間なら、一生をかけて守り通してやりたいよね。

青春は情けなくて上等。行き先も不明瞭で、自分のことも相手のこともわからなくて、もう何もかも格好悪くてみっともない。でもそんな時間が一番自分を自分たらしめてくれていて、世界が追いつけない速度で走っていける季節なんだと思う。私たちに誰も追いつけない、追いつかせなんかしない。向こうみずで浅ましくて愚かでも、鼓動をめいいっぱい鳴らして生きるあの躍動。理解されなくたって良い。誰にも理解されないあの子を自分ひとりが理解したいって、そんな純粋な獣みたいな思いで駆け抜ける時代がきっと誰にでもあった。今日もまた、誰かが異星人に恋をする。
純