ものすっごくかっこいい映画だ。
斬新で芸術的で世俗的で社会的で……
でも何よりアクション映画・犯罪映画大好きなボンクラにとって嬉しいのは、たった一丁の拳銃の重み、その威圧感、銃声の衝撃と倫理的な喪失感、それをすごく体感するような映画になっていたことだ。
全編を通して、緊張の糸が一本通ってる感じで、それがまた切れそうで切れない、緩みそうで緩まない、そんな感じだからこちらも呼吸をするのを忘れるくらい引き込まれる。
監督の妻による原作小説のタイトルは
『A Monster with a Thousand Heads without Brain』
だったらしく、映画化する際に"without Brain"を抜いたらしい。
大企業の細分化された組織構造と、だれも責任をとろうとしない、あるいは倫理的な側面に目を向けないといったモラルハザードを原作ではテーマにしていたらしいが、短縮されたことでより抽象化されたタイトルや、映画としての本作の真に迫った人間描写は、より普遍的で深いテーマを映し出すことに成功したのではないかと思う。
イーストウッドの『許されざる者』に似た感覚というべきか、これを観た後には、自分の心にもモンスターがいるのではないかとふと思うのだ。
かのモンスターは千の頭を以て、今も深淵からこの世界を遍く覗き込んでいる。