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写真家 ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のことのkogureawesomeのレビュー・感想・評価

3.4
過去鑑賞。

1923年アメリカのペンシルバニア州で生まれる。12歳の時に母親からカメラをプレゼントされ写真を撮る。ユダヤ教の聖職者だった父親の反対をおしきり20代の頃に画家を目指しニューヨークへ行く。その頃のニューヨークではジャクソン・ポロックなどが頭角を現していた時代だった。
 画家として芽が出ない彼は写真を生活の糧に生かすことを思いつく。
 1958年から約20年ファッションカメラマンとして『ハーパーズ・バザー』『ヴォーグ』などで活躍し、そのかたわら、ニューヨークの自宅周辺の街並みをプリントもせずにカラー写真を撮り続ける。
 その頃に半世紀の間、人生を共にするモデルだったソームズと出会う。
 カラー写真は当時、アートではないと決めつけられていた。1976年にウィリアム・エグルストンのカラー写真がそんな思い込みをぶち壊し「new color」というカテゴリーを確立させた。それよりもずっと以前から彼はカラー写真を撮り貯めていた。
 1981年、仕事が減少していた彼はスタジオを閉鎖して58歳で隠遁生活に入った。
「私は有名になる欲求に一度も屈した事はない。自分の仕事の価値を認めて欲しくなかったわけではないが、父が私のすることすべてに反対したため、成功を避けることへの欲望が私の中のどこかに潜んでいた」と彼は言っている。
 1994年、未現像のままアパートに保管されていたカラー写真の現像にイギリスのイルフォード社が補助金を出すことにした。
 初めてプリントされたカラー写真を目にした彼のアシスタント(当時は画廊のスタッフ)、マーギット・アープはこう言っている。 「その瞬間を私は一生忘れないでしょう。私たちの前に、突然、画家の眼を通して捉えられた写真のイメージが広がったのです」
 1996年に開かれた展覧会は好評だったが、一部の間でしか話題にならず彼の生活は楽にならなかった。
 2002年、半世紀を共にした女性ソームズが亡くなる。(ドキュメンタリー映画の中で何度もソームズの名前を彼は口にしていた)
 2005年、2度目の展覧会が開かれた。訪れた中にドイツのシュタイデルがいた。
 2006年ドイツのシュタイデル社から『Early color』が出版され、世界的な大反響を巻き起こす。その時、彼は80歳を越えていた。  2013年11月26日89歳でこの世を去った。  約8万点のカラー写真をはじめとする作品の大半は整理されないままだった。
2020年現在も「発掘作業」は続いている。
彼の言葉で印象に残っているものをいくつかあげると、
「私の人生は使われなかった機会ばかりだ。」
「世界は他人への期待に満ちている。その期待を無視出来れば面倒ごとも楽しめると思う。」
「成功者になれる人生と、大事な人に出会える人生のどちらかを選ばなくてはならないなら、私は大事な人に出会える人生を選ぶ」
「写真はしばしば重要な出来事を取り上げるものだと思われているが、実際には終わることのない世界の中にある小さな断片と思い出を作り出すものだ」
どことなく広重の絵の構図を思わせる所があるソール・ライターの写真は、その生き方も含めて魅かれるものがあった。
気づくと
「こういうのもあるのか」「ほわー、なにこれ」「いーね、いーね」「うん いい味でてるいい感じだ」と、心の中で孤独のグルメみたいなことをつぶやいてた。
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