井葉

ジョン・F・ドノヴァンの死と生の井葉のレビュー・感想・評価

4.5
 正直なんだか噛み合ってない部分があるなとは思う。少年にとってジョンがどんな意味を持っていたのかは描かれるのに、ジョン側の少年への思いみたいのは少ししか描かれなかったり、母との和解もなんだか唐突だなと思ったり。インタビュアーの女の人がいきなりラブラブになってたり。でもそんなものを度外視するほど魅了があると思う。完全に偏愛だとは思うが隅々まで行き届いたドランのセンスはやっぱり好きだ。ドランの作る世界そのものがとにかく観ていて心地いい。

 母との関係はドランの永遠のテーマの一つなんだろうと思うがもう一つのテーマは「本当の自分の模索」なんだろうと思う。そういう意味ではものすごくドラン的作品だ。自分でもわからない自分を探し続ける。人に夢を与えるが虚構に満ちた世界で自分を探すのはとんでともなく難しい。性的指向や生い立ちに寛容な世界なら彼ももっと生きやすかったのか?ドラン自身の苦しみがそこにはある。

 あと妙に現実とリンクする点もこの映画の魅力の一つではないだろうか。睡眠薬の過剰摂取による死はどうしてもヒースレジャーを彷彿とさせるし、ホッケーを怪我でリタイアして俳優になったっというのはキアヌリーヴスを、そしてラストのマイプライベートアイダホのオマージュからはやはりリヴァーフェニックスを思い出さずにいられない。なんとなく彼らを重ねて観ることでより生々しく感じた。

 正直上手くいってない部分もあるとは思うが説明不能な魅了を持った作品だと思う。
井葉

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