Kota

ジョン・F・ドノヴァンの死と生のKotaのレビュー・感想・評価

4.3
“時は一瞬で、永遠。”

グザヴィエ・ドラン初の英語作品で出演者達もハリウッドの大御所が連なり(批評家の厳しいレビューがあっても)とても楽しみにしてた今作。ドラン作品は全て鑑賞済みだけど、“胸騒ぎの恋人”や“マミー”に並ぶくらい好きだった。まだ余韻が冷めない。

冒頭、カフェでナタリー・ポートマンとジェイコブ・トレンブレイが話すシーンからドランお得意の顔のクローズアップショットの連続で一気に引き込まれた…これだよこれって。映像の美しさと繊細な表情に字幕が邪魔だと思ったくらい。斜め上から前髪下のジェイコブ・トレンブレイを映す事で、天使すぎる顔を最大限に活かし、ドノヴァンを演じたキット・ハリントンの哀愁ある演技はキャシー・ベイツとスーザン・サランドンの圧倒的な存在感でカバー。後半、手紙が取られる/存在がマスコミにバレる一連のシークエンスは音楽、編集、演技共に最高の完成度(PTAの“マグノリア”を思い出した)。

ストーリーは賛否両論あるみたいだけど、多分ドラン自身が映画の業界における性的マイノリティーで苦労していることを表現したかったんじゃないのかな。業界の固い考えや、マスコミの脆弱性、作品の現在のトレンドについて辛辣なセリフが結構あるから批評家からの受けが悪いんじゃ…(スーパーヒーローの映画は今はいいけど、すぐ廃れるってセリフには笑っちゃった(笑))。一つだけあれ?ってなったのは、母子再会のシーン。ドランとは思えないほどコテコテの演出に挿入歌が“スタンドバイミー”ってほんとどうしたってなった(笑)。“マイ・マザー”や“マミー”で驚くほど繊細に母子の関係を描いていた彼だから…まぁそこも古典的ハリウッド映画への皮肉だと思っておこう。

全体としてドランの中ではLGBT色やフレンチの感情的な要素もあまり強くなくて、ドノヴァンの死を追っていくだけというプロットだけが流れるように美しく描かれていて、ラストシーンでこの映画が伝えたかった事が分かると一気に心が澄み切る。手紙を読むときのライティングが緑色のところとかたまらなくて、やっぱ才能あるなぁと少し嫉妬してしまうくらい素晴らしかった。小説じゃなくてこれは映画なんだから”だから何?ってストーリー”でも役者、撮影、編集、音楽でこんなにも美しく味わい深くなるっていう事を再確認。
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