螢

ジョン・F・ドノヴァンの死と生の螢のレビュー・感想・評価

3.7
母子関係。同性愛。孤独。
グザヴィエ・ドラン作品に共通するテーマが、二人の人物を主役に据えたことによる「共感性」と「対比性」、そして、「大切な記憶を語る」ことによって成立した三軸構成をもちいることで、人生の悲哀だけでなく、救いと愛おしさとして昇華された作品。

街角のカフェ。若手俳優のルパート・ターナーは、語り始める。
自身の孤独だった子供時代のこと。
彼の秘密の文通友達で、たった29歳で謎の死を遂げた人気俳優ジョン・F・ドノヴァンのこと…。

はたからみたら華やかで恵まれた人生でも、実は、誰にも明かせない秘密や深い孤独を抱えていて。
しかも、「名が知れてる」というだけで、悪意と無責任な興味本位によって、秘密は暴き立てられ、追い詰められ。
けれど、そんな人生が、世界でたった一人だけだとしても、共感され、そして、偶然の結果だとしても、その誰かを救い、人生に影響を与え、大切な記憶として心に残り続けることだってある…。

人生の苦しさだけではなく、ささやかな救いと機微が、

記憶を語ろうとするルパート青年のパート、
少年時代のルパートのパート、
ドノヴァンのパート、

という三軸構成の切り替わりの中で描かれています。

これがまるで、ドラン自身の思い出を愛おしむような私小説的な効果を生み出していて、じんわりと胸に染みます。

若き日のドランが注目を集めた大胆かつ奇抜な映像は封印され、劇的な展開も明確な結末もないためか、評価がかなり分かれているらしい本作。

けれどこれは、公開前の作品紹介にあった、「手紙から明らかになる死の真相」的な宣伝文句が、あまりに内容からかけ離れたものだったせいも大きいと思うのです。

誰かの心の内や人生の真相なんて、他人になんてわからない。わかるわけがない。
けれど、誰かの人生は、本人の預かり知らぬところで、別の誰かにかけがえのない大きな影響を与えていることだってある。

ただそれだけだと思うのです。

個人的には、ドランがいつものテーマを、これまでとは違うアプローチで描いていた点はとても興味深く観られました。
そして、ドラン作品を観終わるといつも感じていた息苦しさや閉塞感、悲しみだけでない、救いと慈しみが含まれていた点が本作の特色としてよかったと思いました。
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