岡田拓朗

ジョン・F・ドノヴァンの死と生の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

4.0
ジョン・F・ドノヴァンの死と生(The Death and Life of John F. Donovan)

少年との"秘密の文通"によって明かされる美しきスターの死の真相。

美しきスターの「死」から「生」を辿ることで彼の真相を追い明らかにしていくミステリー性を軸に、その真相から無意識に人を追い込んでいく社会の悪しき風潮(圧力)に問題提起しながら切り込んでいく秀作。

ミステリーなおもしろみだけでなく、大多数のそれとは違う自分の立ち振る舞いに葛藤する一人のスター、いや人間の葛藤を余すことなく描き切り、文通を通した少年の家族の真相をも感動的に暴き切る家族ドラマでもある。

自らに憧れていた、もしくは今もなお憧れている今は亡きスターがもし心の中にいるとしたら、この映画はよりとてつもない強度を生み、深く入り込んでいける作品となっているはずだ。
どうしても照らし合わせてしまう。

本当の自分を押し殺して、世の中に求められている偽りの自分を創り上げることで、スターとしての輝きを保ち続ける。
でもそれは続けば続くほど、自らの首を絞めることになり、結果としてどんどんしんどく取り返しがつかなくなっていく。

ジョン・F・ドノヴァンは倫理的によくないことをしていたかというとそうではなかった。
ただそうだとしても世間の大多数から見たときにそれがどうなのかというと、それは時代による悪しき風潮からスターとしての人生を崩してしまうことがある。
これは何もスターだけでなく、色んな人が犠牲となることであろう。

今でこそ多様性が受け入れられるようになってきたが、本作で描かれている時代の中ではまだまだ固執した価値観が全体を支配していた背景があった。
その中で確かに蝕まれ、翻弄されていく一人のスターに、何とも言えない悲壮感を感じられる。
多様性もたくさんの犠牲からやっと生まれるようになってきたんだということが改めてわかる。

なぜ悪いことをしていないのに自然体で、ありのままの自分で生きていけないのか。
社会の目の監視が強いからこそ、プライベートですらも嘘をつき続けないといけなくなるのだ。

この映画に映し出されているものには、いかに自分たちが無意識的に行うことに対して、イマジネーションを働かせられているかどうかを考えさせられる。
そしてその重要さを直接的でなく、あくまでメタファーとして映画的にじわじわと訴えてくる。

偽らずにありのままの自分で接することができる人がいる。
このスターのみならず、意外とそういう人がいる人って少ないんじゃないか。
そう考えるとこれは何も映画の世界だけでない、現実の世界としても転化できることでもあると思った。

だからこそありのままで接することができる人は何が何でも大切にしないといけない。
それがなくなった瞬間、一気に孤独に打ちひしがれてしまう可能性もあるから。

その中でもスターや有名人が意外と孤独になりがちなのは、後のことを考えると交友関係を闇雲に広げていけないこともあるんだろうなと。
表の世界だけを見てその人を羨むのはお門違いかもしれない。

また、スターである表舞台の顔と一人の人間としてのプライベート(裏)での顔を交互に映すことで、メリハリもしっかりついていてスクリーンに釘付けになる。

そしてこれだけの登場人物を巧みに繋げていきながら、それぞれの描写までしっかりと違和感なく描き切るセンスも凄い!
自分がいかに人のある側面しか見られていないかということに気づかされる。

罪は何も知らないこと。何よりも真実が欲しい。確かにそうだなと。
人だけじゃなく会社とかも含めて何かが破綻するときって表層だけを見て真実を知らないこと(蓋を閉めること)で、裏で溜まっていたものが時すでに遅しになる状態から生じることがよくあるだろうから。

それと同時に少年ルパートの物語から、自らが誰かと関わっていくことで、ありのままでいれない居心地の悪さを感じるとき、意図して孤独になり何かに夢中になることは決して悪くないことなんだと思えた。
そこから大人になってあのラストに繋がっていくのが救いでもあったように思う。

真相を辿っていくことで、窮地に陥ったときにその人の味方になることこそが、唯一無二の家族であり、それが理想の家族である点も含めて触れられている本作。

色んなテーマが2時間に濃縮されている凄まじい映画であった。

P.S.
幼き日、僕はレオナルド・ディカプリオに夢中だった。そして憧れの彼へ手紙を書いた。これは、僕の経験から誕生した物語だ。
そうグザヴィエ・ドラン監督は語る。
鑑賞後にそれを観たとき、胸が熱くなったと同時に身震いがした。
タイトルが「生と死」ではなく、「死と生」であるのも凄くよい。
キャストも全員よすぎ。
子役のジェイコブ・トレンブレイには特に驚かされた!
岡田拓朗

岡田拓朗