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ジョン・F・ドノヴァンの死と生のalmosteverydayのレビュー・感想・評価

3.5
コロナ禍のしわ寄せで公開延期どころか劇場そのものが休業を余儀なくされていたこの春、映画を観るのは実に2か月ぶりであります。冒頭で引用されるヘンリー・デイヴィッド・ソローの言葉は「愛よりも金よりも名声よりも真実が欲しい」。なるほど。では、その真実とは。

画はいつものドラン感、つまり登場人物の表情を執拗なまでに大写しで追うあのカメラワークが健在なもので相も変わらず圧が強いです。主人公が回顧する英国の曇天の重苦しさも相まって、いつもながらに漲る緊張感。しかしその不穏な気配が少なからず和らいで見えるのは、ジェイコブ・トレンブレイ演じる11歳の少年から見えた(想像された)世界をもとに作品世界が構築されているからでしょうか。「ルーム」公開から早5年、「あの子がこんなに大きくなって…!」的感慨と「まだまだこんなにあどけなく愛らしいなんて…!」という安堵がちょうど半々くらい、今後がますます楽しみであります。

この先ネタバレはしないので安心していただきたいのですが、どうにも分かりにくかった点がひとつだけ。成長して若手俳優となったルパートをハナから適当にあしらう気満々だった記者が、中盤のあのありふれた訴えひとつで聴く態度を改めるとはにわかには信じ難いのですよね。物語の転換となりうるエピソードを何かひとつ、象徴的に配置しておいたらストーリーの推進力が増したのでは…という気がしました。単にわたしが重要なシークエンスを見逃しているだけ、という事態も否定できませんが。

物語の主軸はふたつの親子関係で、母親でも息子でもないわたしに共感の余地はなさそうだ…と油断していたら、思わぬところで涙腺が決壊しました。ドノヴァンに契約終了を告げるベテランマネージャーの「私にはこの人生しか生きられない」という台詞が、それはそれはもう格好よかったのです。否定形でありながら卑屈さや後悔の念は一切感じられず、職業人として己の信念を貫き誇り高く生き抜いてきた自負が静かに、確実に滲み出ている。「リチャード・ジュエル」での慈愛に満ちた母親役も記憶に新しいキャシー・ベイツ、いぶし銀の名演でありました。しびれた。

それからもひとつ、90年代UKロック好きとして言及しないわけにはいかないのがラストシーンのあの曲です。もうね、みんな観て心のありったけを全部もって行かれたらいいと思う。本当に。
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