うべどうろ

風櫃(フンクイ)の少年のうべどうろのレビュー・感想・評価

風櫃(フンクイ)の少年(1983年製作の映画)
3.4
侯孝賢が世界的なスターダムにのし上がる嚆矢となった作品。後続の「童年往時」や「冬冬の夏休み」などに比べると、とても荒削りな作風で、テーマも“ありのまま”という感覚を抱く。まさしく自伝的作品という言葉が、その字句通りの意味で表象されており、それ以上でもそれ以下でもないという印象。それでも、やはり、この作品が纏う時代の空気、地域の薫香は、まさしく侯孝賢の作品であり、強烈な作家性を帯びる。

この作品を鑑賞する僕の耳に、そして脳内に、「大人になれない僕らの強がりをひとつ聞いてくれ」という歌詞を伴って、あのメロディが流れてくるのは、あまりに拙い感想だろうか。主人公の阿清は、仲間内では「大人になろうとしている」存在であり、恋に将来に、さまざま想像を膨らませ、その狭間で苦しんでいる。しかし、一度家族の元に帰れば、父の想い出に浸り、家族からの諫言に言葉なく暴力で抗うことしかできない無力な子供へと戻る。その瞬間に、あの年代特有の浮遊感が漂うように思えた。それこそが、この作品が描く宝石たる美しさではないか。
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