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メッセージのTSのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.0
【沈黙し続ける巨大飛行物体】85点
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監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
製作国:アメリカ
ジャンル:SF
収録時間:116分
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2017年劇場鑑賞41本目。
雰囲気も良かったし、邦題通りといいますか、メッセージ性も非常に強い作品と感じました。音響編集賞を受賞しているということもあり音質が非常に良いです。流石ソニーが絡んできたら一味も二味も違う。TBSの深夜の世界遺産を少し思い出しましたよ。今作は紛れもなくSF宇宙人モノなのですが今までのそれとはまた違う。これまでの宇宙人モノは侵略という激しい描写が多かったですが、今作はそのまるで反対。非常に静かで、上品な映画とも言えます。

ある日、世界の12ヶ所に謎の巨大飛行物体が現れた。あちらから攻撃も何もなく、徐々に不安になっていく人類。そこで、アメリカの言語学の第一人者であるルイスの元に、アメリカの軍の者が訪ねてくるのだが。。

そもそもこの謎の巨大飛行物体が何をしにきたのかさえわからないというのが非常にリアルです。宇宙人が来たら侵略される!というルールは今作において通用しません。いや、もしかしたらそうじゃないのかも?と淡い期待を寄せてしまう映画であります。実際に宇宙船が地球にやってきたらこんなものではないでしょうか?仮に人類が遠い星で文明を発見した場合、いきなり攻撃なんてしないでしょう。まずは「交信」をすると思われます。従って、今作のシチュエーションは中々リアリティがあり興味深いものでありました。
そして冷静に言語学者を活躍させるというのも好印象。何事もまずはコミュニケーションをとれてからです。相手の言葉や文字を解明するのが非常に重要であるということを今作は思い知らせてくれます。その謎の飛行物体が放つ「メッセージ」をルイスは懸命に解明していこうとします。果たしてこの飛行物体、そして中にいる宇宙人は人類の味方なのか、それとも…

これ以上のネタバレは伏せますが、今作は二つ重要な点があったと思います。一つは世界が結束しないと平和なんて訪れないということ。それぞれの国益を優先してしまうが故に対立していく大国。そして対立していく中で発生していく無慈悲な争い。人類は争いをしないと生きていけない生き物といっても過言ではありません。しかし、そんなことをいつまでも続けていて果たして良いのか。悲しいことに、このような謎の飛行物体が世界中に現れても、大国は自身の国で得た情報を国家機密レベルとして絶対に他国に漏洩させません。最悪の事態を考慮すれば、世界は結束すべきでしょう。なのに、国々は意地を張り一つになろうとはしません。悲しき事態です。
もう一つは言語や文字の重要性についてです。未知の言語や文字に出くわしたらどう対応すれば良いのか。ルイスは作中で、有名なカンガルーの語源について言及しますが、あれはやはり興味深いです。そうやって、意味がわからない=恐ろしい、危険な存在。とみなしてそれらを撲滅してきた例はこれまでにどれ程あるのでしょうか。文明の衝突というのは、世界中に人類が存在している限り避けれない現象でありますが、衝突して一方が消滅してしまう事態は避けなければいけないでしょう。自分たちからして全く未知の言語であっても必死に理解しようとする。この姿勢は、人と良好な関係を築き上げることにおいても非常に重要なものになると言えるでしょう。それを最後まで貫いたのがルイスであり、それが不可能であるから撲滅しようとしたのがとある国でありました。この対比は興味深かったです。

実はもう一つ、重要な要素がありますが、これは最大のネタバレになりかねないのでここでは伏せます。総じて中々良い作品。宇宙空間を一切映さないSF映画なのに驚くほど神秘的に感じます。それは音楽のおかげでもあり、幾何学的かつシンプルな形状をしている巨大飛行物体のおかげでもあると思います。毎年SF映画はアカデミー賞作品賞にノミネートはされるものの、受賞までにはなかなか至らない。しかし、ノミネートされるSF映画は毎度なかなか安定しています。『インターステラー』あたりが好みの方にはオススメかもしれません。
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