140字プロレス鶴見辰吾ジラ

メッセージの140字プロレス鶴見辰吾ジラのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.5
”Choose your…”

映画がある一点に到達した瞬間にこみ上げてくる感情。
朝霧の中に浮かび上がる空撮ショットからの美麗な風景。
水墨画のように浮き上がってくるヘプタポット文字の美しさ。
抱かれるようなリフレインする綺麗な音楽。

凄い映画を見た…、この感情は何より心地よい映画。

監督は、ドゥニ・ビルヌーヴ。
今、映画業界で注目される監督と言えば
ドゥニ・ビルヌーヴとデイミアン・チャゼルの2人でしょう。
「複製された男」「プリズナーズ」「ボーダーライン」
まだ「灼熱の魂」「静かなる叫び」は未見なのが悔しい。
今年は「ブレードランナー」の続編を控えるというドゥニ・ビルヌーヴの年になることを嬉しく思わざるを得ない。

音楽はヨハン・ヨハンソン。「ボーダーライン」で放った重点音を効かせた締め付けるような音楽による緊張感。映画自体に重力効果をもたらせるためSFとは相性が良かったと思った。

さて、内容に入ると予告編の段階で挿入されていた新海誠のコメント、そしてラジオ放送で今作を紹介する映画評論家の町山智浩さんのコメント。「ん!?ネタバレ含んでいる?」という領域の話で、想起したのがクリストファー・ノーラン監督のSF巨編のある種の到達点「インターステラー」。”時制”を演出の中核に組み込まれていたこともあり、過去・現在・未来の融合体としての壮大さを表現するのでは?という感覚もあったが、今作を見終えて、「インターステラー」をポップなファンタジーなセカイとして切り離すと「君の名は。」、哲学と自身のセカイとして切り離すと「メッセージ」になるのではと感じた。去年公開された庵野秀明監督の「シンゴジラ」のようなマクロ的な事態への対処ではなく、主人公の言語学者の”回想”と対処というミクロ的に設定されている。事象が発生してからの個人目線を、映像でなく警報、ニュースキャスターの声、戦闘機の破裂するような低空での通過音で作品の重力として見る者を括り付けるような感覚は唸ってしまう。ミクロ的に主人公の想いと対策にフラッシュバックのような回想が挿入される中、言語学としての仮説の立証という哲学的な要素と言語ならではの文化的偏見の偏見の部分をトリックにした終盤の逆転演出は素晴らしい。ヘプタポッド文字の円環構造と意味を表す分岐点の解釈とこの作品の始まりと終わりのシーンがヘプタポット文字と同じく円環になっていると判明するその爽快感は、切なく愛おしく、哀しく美しい。途中、中国が異星人に宣戦布告する場面があり、また中国への映画接待か?と思わせておきつつも、実は文化的に中国が来訪者の文字の解読に世界各国の中で秀でて近づいた理由もしっかりと存在している。世界の危機を救う主人公の言語学者として、そして哲学として、仮説としての対処法は美麗な作風から荒唐無稽性を隠せないでいるも、ここ最近の驚愕させたSF映画としては限りなく正解なのだと思う。

「凄いです…。」と言わしめるファクターに取り巻かれているものの、難解度もあり、さらに結婚や育児、そして選ぶ未来と選ばせる未来のような人生哲学を積み上げていないと、自分自身なポップな部分に届かないのでは?という疑問符的な中刷り的な印象も感じてしまう、監督のフィルモグラフィーの中において未完の期待感と未来への約束を感じさせる重要な作品になりそうだと思う。