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メッセージのmeのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.0
いろいろと突っ込みどころはあったが、深く考えたSFではあった。多少ネタバレがあるのでご注意。



「あなたの人生の物語」
という原作の題名に重きを置いて感想を書いてみる。

ルイーズのような能力がない私達でも絶対にわかる未来がひとつある。
それは自分がいずれは死ぬということ。
この先 科学の進歩で、死ぬという概念がない世界が生み出されるかもしれないが、少なくとも私の生きているうちには無理だろう。(それこそ、宇宙人がやってきて手助けしたりしなければ。)

となると 遅かれ早かれ自分に訪れるほぼ確率100パーセントの絶対的な結末…それが死。
そんな衝撃的な未来を当たり前のように知っていても、それが当たり前のように生きている。
これは結構すごいことだと、改めて思う。

行き着く先が死だとわかっていても、人はご飯を食べたり、仕事をしたり、恋をしたり、子どもを産んだり育てたり、笑ったり泣いたり。他にもいろいろする。

重要なのはarrival(到着)する場所がどこか、それを知っているかではなく、そこに行き着くまでの過程(人生、もっと言うと瞬間)を自分なりに精一杯味わうこと、なのかもしれない。

イアンがルイーズを抱きしめた時、彼の腕の中で感じた幸せな気持ちを、彼女は素直に優先させることにしたのだろう。
今感じた自分の気持ちで人生を選ぶということ。
それは能力を使ってリスクを回避することより格段に素敵なことだと思う。

悲しみの一切ない楽しいだけの人生なんて、きっとどこにもないだろう。
悲しみの数だけ喜びもある。

でも、誰もがルイーズのように考えられて、強いわけじゃない。
「パパが私を見る目、変なの、普通にしてくれない」というようなことをハンナは言っていた。
イアンは娘が死ぬという未来を聞いて、たじろいだ。不幸になるとわかっていてそれを簡単に受け入れることはできない。
行き場のない怒り。
能力者ではない普通の人間のリアル。


では残酷な未来を前に、人が笑うにはどうしたらいいか。

そんな時こそ、ヘプタポッドの思考が活躍するのではないか。

ギフトとは…時間の流れに縛られる人類を解放する思考のこと。


ヘプタポッドは、過去も未来も今に凝縮されている。生まれた時から自分の人生を丸ごと見て、それを当たり前に受け入れ、生きている。

(きっと爆発で負傷し死にかけたヘプタポッドも、自分の終わりを知っていて、それでも地球に来たのだろう)

ヘプタポッドの思考は未知の領域なのでイメージがつき辛いが、
少なくとも、時間を忘れて何かに夢中になっている瞬間 たしかに時間は存在しない。
過去も未来もなく、今だけが存在してる。
そんな「時間を忘れるような時間」なら、イメージできる。


そしてもし、時間を意識しすぎて不幸になるなら、

時間という概念があるからこそ、人類は限りある人生を尚更大事に思うことができる。
そう受け入れれば、悲しみはいくらか減るだろう。(もはや悟りの領域…良い意味で諦めることは、頭ではわかっていてもなかなか難しい。)


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この映画を観ていろいろ考えることがあり、
時間の概念を持たない「アモンダワ族」や、現在過去未来が同時に存在するという「ブロック宇宙」理論、ガン末期患者が死を受け入れるまでの心の5段階を研究した本など、関連として少し手をつけた。


非ゼロ和ゲームという言葉も初めて知った。
(複数の人が相互に影響しあう状況の中で、ある1人の利益が、必ずしも他の誰かの損失にならないこと、またはその状況。
参加者の間で、資源を分配しあうというよりは、資源を蓄積していく状況に当てはまり、そこでは、ある人が利益を得たことと独立して、他の人も利益を得ることができる。=ヘプタポッドと人類の関係を表す、これ以上なく適切な言葉)




すごい面白かったよ!と気軽に紹介できる作品ではないが
テーマが深く、演出が複雑で、あとを引く映画が観たい人にはオススメする。
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