このレビューはネタバレを含みます
視覚的エンターテイメント的なものを期待していたら、思考的エンターテイメント的なものであった。
宇宙を巻き込んだお話が結局は主人公のごくごく私的なお話にまとまるのが面白い。
なんだかんだ言ったって、自分の物語は自分の半径3mぐらいで帰結するんだよね。
そもそも、母が娘に語る物語みたいだったし。
異形のものとの対話を通して主人公が得たのは新しい物事の捉え方、考え方で、
それは言い換えると全く新しい時間の概念で、
それが人類にとってどんな意味を持つのかは分からないし、
異形のものが何しに来たのかも、3000年後の人類に何が起こるのかも結局分からない。
それはそれでいいんだよ、主人公が新しい概念を手に入れたんだから。
3000年後に何が起ころうと、もう主人公の知ってる人はいないんだし。
主人公以外の登場人物がどこかぼんやりしていて、
例えば大佐はわりと主人公たちに協力的だけど、上の人に何か言われてる様子も無い。
イアンがどういう人なのか、捜査官はどういう人なのか、全然分からないけど、
娘に語る上で大した情報じゃないし、主人公自身そんな興味なかったんだろうね。
ヘプタポッドしか見てなかったんだろう。
最初に全世界の協力体制から脱するのが中国ってところも素敵。
アルファベットの羅列である他の言語ではなくて、
漢字を使う文化圏で軍事力もあるのは中国だけだね。
この役目は同じ漢字を使う文化圏でも日本には担えない。
中国と日本はきっと、早くに異形の文字の解読に成功していたと思う。
漢字は表意文字で、英語やロシア語は表音文字だから。
それを好戦的に解釈するのもなんとなく中国っぽい。
日本だともう少し和平的解釈になったんじゃないかな。
だからやっぱり和を乱すのは中国じゃなきゃダメなんだ。
学者は本当に知的好奇心旺盛だなと思う。
知りたい、解読したいと思う欲求がないとあそこまで頑張れないよ。