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メッセージのkouのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
5.0
《あなたの物語》
素晴らしい新たなSF映画を見た。哲学的でもあり、SF映画としてのダイナミックさもあり、世界と個人をつなげ、決してフィクションに収まらない、一人の人間の生き方について言及した映画に仕上げていた。流石ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。ボーダーラインも最高傑作だったが、今作も素晴らしかった。傑作と言い切りたい。

未知の生命体との接触を描くという所で言えば例えば「コンタクト」を思い起こさせもする、また「2001年宇宙の旅」的な進化という要素もある作品でもある。物語は未知の飛行物体が飛来することから始まる。言語学者であるルイーズ(エミリー・ブラント)は軍よりその知的生命体とのコンタクトを図ることを依頼される。彼らの伝えたい事、そして地球に来た意味とは何なのか。それを探るルイーズの行動にフラッシュバックして、彼女と娘の姿が描かれる。娘は病気を患い、そして亡くなってしまう。

とても面白いのは、知的生命体の宇宙船の中の描写だろう。反転する重力、どこか見たようで新しさもあるデザインのヘクタポット。また、彼らの言葉が図形のようなもので、どうにか主人公がそれを読み解こうとする前半部もミステリー的な要素があり面白い。そしてとても新しいのは、僕らの言語のような始まりと終わりがあるものではなく、円環した構造を持っている言語という事だ。そしてその、「始まりと終わりがない」という事は、「時間が一方向なのか」という今作の重要要素にも繋がっているのだ。

またストーリーの転がり方も見事だ。エイリアンがなぜ来たか、そして何を授けに来たのかという疑問が後半に一気に回収される。また、映画的なトリックがあり、驚きもあるのだ。そして何より感動的なラスト。とても素晴らしかった。

本作は、SFというあるフィクションでありながら、同時に人間の生き方、哲学にも及ぶ主題が含まれている(常に主人公の内面にフォーカスする演出からもそこがメインで描かれていることがわかる)。その主題は、「もしわれわれが未来がわかってしまったらどうするのだろうか。結果がわかってしまっていたら、僕らはそれを避けようとするだろうか。」という事だ。悲しい結末がわかっていても、同じ選択をするだろうか。本作では、そんな疑問に対してとても感動的な結論が示される。それはとても切なく、悲しいながらも、人間の喜び、希望でもあるのだ。

SF史に残る、とても素晴らしい一作だと思う。映画を見ていてずっと引き付けられ、そして最後に感動の波が押し寄せる。素晴らしい一作に出会った。傑作。
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