ベルサイユ製麺

メッセージのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.7
今よりもっとボンクラだった中学生の頃、化学の時間。生徒達に舐められがちだった寡黙な先生が、大騒ぎする生徒達に突然背を向け黒板の隅にぐるぐるとバネの様な絵を書きだして「時間というのは実際にはこの様な形をしていると思うのです。この螺旋を縮めて飛び移ることが出来ればタイムスリップは…」とボソボソ語り出した事が有りました。先生は自分の馬鹿げた考えを、この瞬間ならば誰にも聞かれないでいられる!とでも考えたのでしょうか?実際殆ど誰も聞いてなかったみたいでした。自分は「でえれーカッケェ」と思って見てましたよ。先生は今どこで何してますかね?先生はヤバい人でしたか?

作品全体を使って、ある一つのアイデアを提示する。恐ろしく繊細で、実はシンプルで、胡散臭くもあるものの、途轍もなく魅力的なアイデア。夢を委ねてみたくなる様な。
本来的にはこのアイデアは、映画や文学の様な基本、時間軸で一方向に進む表現メディアより絵画やグラフィックの様な一度に全てを見渡せる表現の方が(サブテキストは欠かせないとは思いますが)理念を伝えやすい様に思えます。それでも、広く・分かりやすく伝える為に原作者はこのアイデアをエモーショナルに物語に織り込み、映画制作者達は、それを過不足なく2時間弱の美しい作品に詰め込みました。そしてこの完璧なバランス感覚はやはりドゥニ・ヴィルヌーヴ以外には成し遂げられなかったのではないかと思ってしまいます。ただただ見事。
心と脳が仄かに熱を持つようなSFです。『インターステラー』みたいな髭ボーボーのSFじゃなくて、もっと柔らかくて滑らかで有機的。誤解を招くのを承知で言えば、女性的。
SFと聞くと敬遠してしまう層の方が少なからずいらっしゃるとは思うのです。(気持ちは分かります。)でも、SFでしか表現出来ないフィーリングというのは確かに有って、今作で言えば、ある途方も無いアイデアを齎すのが“遥か高次元の文明を持つ生物”である、という辺りなのですが、これがもし“特定の国の天才科学者の発見”だったとしたら、果たしてそのアイデア、世界中で受け入れられるかな?なんて考えてしまいます。人間ってややこしいから…。だから、思考をちょっとだけジャンプさせるために、SFって凄く有効に思えます。“侵略者と戦う”とか、“恐ろしい何かに怯える”とかは、現実だけで充分なんではないかしら?美しい草原を走るジープの無粋さを、宇宙船のエレガントさを見よ!
…なので、普段SFを観ない人にこそ観て欲しい。あと、ちびっ子。御年配にも。勿論男女問わず。要はみんなに。2010年代を代表するマスターピースです。
言葉の無力さ…じゃなくて、既存の言語の無力さ…でもなくて、既存の言語の先の、認識の無限の可能性を示してくれました。本当に素晴らしい!次のロケットにはゴールデンディスクの代わりに今作のブルーレイディスクを搭載すべき。