ワンコ

メッセージのワンコのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.5
【僕らの人生の物語として】

この映画の原作タイトルは「あなたの人生の物語」。
映画の原題タイトルは「アライバル」。
邦題タイトルは「メッセージ」。
結構、苦労の跡が窺える。

原作タイトルにSF的なイメージがないからだろうか。

僕は、この原作の大ファンだ。
文庫本でたかだか100ページの長さだが、これほどSF的で、緻密な構成や発想の転換が盛り込まれていて、更に、哲学的…、どちらかというと仏教に近いような宗教哲学的で、また更に、僕達ひとりひとりに向けたメッセージが多分に含まれている物語に出会うことはなかなかないからだ。

そして、映画。
この短くも偉大な原作をどのように映画として昇華させるかについて、表義文字の表現から、エンディングに追加されたストーリーまで、かなり思考を巡らせた跡が感じ取れる。

宇宙人・ヘプタポットの表義文字。

これは、僕達の表音文字や表意文字とは、異なり、時制がない。
つまり、過去、現在、未来がないのだ。
映画として、どのように映像表現するかに興味を持ったが、ループ状で、なるほど、物事には原因と結果があって、それは密接に関係しているという表現なのだと思った。

そして、ルイーズがこの表義文字の理解力を身につけるにつれ、獲得する意外な能力が、ルイーズのヘプタポットとのやり取りと、プライベートのエピソードが交互に語られる構成の意味の重要性を示していることに気がつく。

ネタバレのようになるが、原作のテーマは、「人は、自らの運命を仮に知ったとしても、それを受け入れて生きていくのだ」ということだと思った。

しかし、僕達は今、僕達の運命を既に知っているわけではない。
だからこそ、今をより良く生きることで未来がより良くなる可能性が大いにあるのだと、逆説的に示しているのだと感じた。

そして、ある意味、この哲学的なメッセージに対して、この作品がSF映画であることを前提に、あのエンディングに繋がるのだと思った。

僕達は何ら僕らの世界の運命を知っているわけではない。
だから、今(現在)考えて行動することに意味があるのだ。
過去は現在に繋がる。
しかし、より良い今が過去になれば、次の今や、その先の未来がより良くあることは可能なのだ。

分断や対立、紛争、差別、そして、環境の問題など山積する問題について、想いを馳せ、行動することは可能であるはずだ。

SF映画や小説では、宇宙人は、どちらかというと人間にとって脅威として描かれるケースが散見されるように感じるが、地球人が先見性を身につけ、平和を希求する方が、宇宙人にとってもより良い宇宙への標なのだということかもしれない。

僕が映画のレビューを書き始めるよりも前、三年近く前の公開作品だ。
記憶を辿りながらレビューを書きました。

ただ、原作があまりに好きすぎるので、マイナス0.5にさせて下さい。
ワンコ

ワンコ