Ren

リメンバー・ミーのRenのレビュー・感想・評価

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
4.0
興行面も批評面も大成功し、多くの人が今作でピクサーの完全復活を意識したと思う。前作『カーズ/クロスロード』から一変、より分かりやすく全年齢対象に間口を広げた、親子三世代全員に通じる・全員が感動できる優れたエンタメ。初見時は劇場で普通に泣いた。

もう絶賛評も批判も何もかも出尽くしているので特に新しいことは書けないけど、間違いなく2010年代で最も広い層におすすめできるピクサー作品ではある。

音楽というモチーフ、カラフルで色鮮やかでキャッチーな死者の国、ラストまで伏線回収を怠らないよく練られた脚本。愛される要素は大量にある。
「夢を諦めることはない」「家族はきっと分かり合える」というディズニーすぎる/アメリカすぎる思想に帰していく点で評価はバックリ割れるだろうけど、自分はむしろ「ディズニー史上一番ウェルメイドな "ディズニーらしさ/アメリカらしさ" の教科書」としてめちゃくちゃ面白いと思った。描かれる家族主義思想に同意するのではなく(その思想も別にそれ自体が存在してはいけないほど有害なものではない)、家族・血縁主義の人はこういう物語を書くよねという勉強と確認。

家族・血縁の素晴らしさを肯定する細田守作品、特に『未来のミライ』を想起する。
主人公が一度は家族からの疎外を選択するものの、ひょんなことから先祖何代も上まで遡り、血の繋がりの尊さに触れていく。
『未来のミライ』は「ご覧ください、これが保守派の考える家族の話です」と主張したい部分だけを煮詰めた映画だったので、それよりは表層の映像美・音楽・世界観をゴージャスかつ綿密に積み上げ脚本を練り上げた『リメンバー・ミー』のほうがエンタメとして誠実だなと思う。

ずるい部分も無いわけではない。
そもそも音楽を禁忌としている家をヘンだと思わない人の方が少ないわけで、設定から観客をミゲル側に引き込んでいるのは少し「逃げ」だなとは思った。家族がおかしい!ミゲル頑張れ!と観客側にバイアスをかけている。音楽をYouTuberやゲーマーに置き換えてからが本番だろう。

家族の和解に際して、どう考えてもミゲルの労力が大きすぎるのも問題な気がする。虐げられたミゲル一人が奮闘し、苦しみ、死のリスクを背負い、それでも家族は一つになるべきだと気づく(気づいてしまう)。その他の家族はミゲルに感化されるだけでほぼ何もしていない。最後は全員等しくハッピーエンドを享受するのに、大多数の人にはそこに至る葛藤の影が見えない。この不均衡さはしんどい。ただしこの点は『インクレディブル・ファミリー』で少し救われた。

もちろん良い点もたくさんある。
鐘のエピソードの反復、ママ・イメルダの歌の克服(ステージに上がる際になぜせり上がりの台から降りなかったのかは少し気になるけど)などは、分かりやすく布石の回収/伏線回収の気持ちよさがあって楽しい。
そして白眉はなんといっても『Proud Corazón』とともに語られるエピローグ。この歌がラストで良かった。ミュージカルとしての多幸感もあるし、コンパクトに救われてほしい全員の幸せそうな表情が見られるし、何より歌メロがいいのでずっと聞いていたいし観ていたい。石橋陽彩くんのクリアな歌声が真っ直ぐ響いてくる。そこに被さるような某人の「いってらっしゃい」で引くほど泣いた。

加えて、キーとなる曲のタイトルと作品自体の核の部分に簡潔に踏み込んだ『リメンバー・ミー』という邦題が素晴らしい。日本では当初『ココばあちゃんのバラード』という邦題で宣伝を出していたのだけど、ネタバレっぽいし変えて正解!


《第90回アカデミー賞戦歴》
受賞
★歌曲賞(Remember Me)
★長編アニメ映画賞
Ren

Ren