茶一郎

リメンバー・ミーの茶一郎のレビュー・感想・評価

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
4.3
 「たとえ肉体が滅んでも誰かの思い出に残ってさえいれば、人は生き続ける」普遍的でありながら、非常に観念的であるテーマ。子供から大人まで楽しめる娯楽作において、ともすれば避けがちな「死」というモチーフ。これを真正面から描こうというのですから、ピクサー・アニメーションには心底、感服します。そして、それを描き切った本作『リメンバー・ミー』は、誰が見ても楽しめる大娯楽作であり、下手をすると身体中の水分を吸い取られるほどの強い感動を誘う作品に仕上がっているのですから、もう私のピクサーに下げた頭は一生、上がらないと思います。
 
 思えば、ピクサー・アニメーションが「死」を描いたのは、本作が初めてでは無かったです。記憶に新しいのは「泣けるシーン」としてもうクリシェになりつつある『カールじいさんの空飛ぶ家』の冒頭7分間。セリフを全く使用せずに、出会いと死、別離を描く、これまた脱水症状必至のシーンです。
 加えて、本作の監督リー・アンクリッチ氏が同じく監督を務めた『トイ・ストーリー3』では、「あっ、俺たちもう今から死ぬんだ」と、オモチャの登場人物たちが死を覚悟する子供向けとは思えないダークな瞬間を描きました。
 年々、ダークさが増す傾向もあるピクサー作品では、「大人になれないコドモ大人」、「家族」、「親友」と、初期から一貫して作り手たちが真に実感できるものだけが描かれてきました。そんな作り手たちが、いよいよ50代、60代にさしかかり、「死」とそれに立ち向かうべく姿勢を物語に紡ごうとしたのではないかと思います。

 「死」やら、「人は二度死ぬ」やら表面的にさらうと難解でシリアスに思えてくるな……などという心配が、本作より遥かに設定が難解な『ウォーリー』、『インサイド・ヘッド』をくぐり抜けてきたピクサーに浮かぶはずもなく、本作『リメンバー・ミー』の物語は超が100個付くエンターティメント作でした。
 今まで「行って帰ってくる」シンプルなオデュッセイア型(こんな言葉はあるのか!?)の物語を語ってきたピクサーですが、本作もその例から漏れません。
 さらに本作は、今までのピクサー以上に宮崎駿作品的な物語構造を持った作品に仕上がっているように思いました。主人公が「死の国」という異世界に巻き込まれるという『不思議の国のアリス』的『トトロ』や、『千と千尋の神隠し』といった設定はもちろんのこと。異世界に迷い込んだ主人公が、その異世界の頂上に物語の目的を見出し、「上がって」そして「一度、落ちて」また「上がる」という物語内の主人公のアクションが、『長靴をはいた猫』、『カリオストロの城』、『風の谷のナウシカ』と類似しています。これをもって私は本作『リメンバー・ミー』が非常に宮崎駿的だなぁという感覚を抱きました。

 「たとえ肉体が滅んでも誰かの思い出に残ってさえいれば、人は生き続ける」さて、本作を見た方なら、疎かにしていたお盆の行事を思い出し、絶対、お墓参りしたくなる事だと思います。
 楽しいし、泣けるし、アニメーション作品として挑戦がある。これを世界一のアニメーション・スタジオがコンスタントに達成し続けているというのですから、驚きです。そして何より観客から涙を絞り切った後に、ダメ押しで最後の一滴を吸い取るのがエンドロール後。本作『リメンバー・ミー』自体が沢山の思い出によって作られていたと知らされるのです。
茶一郎

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