ケーティー

リメンバー・ミーのケーティーのレビュー・感想・評価

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
-
※字幕版で鑑賞

ラテンの風にのせて送る、最先端なのにどこか浪花節な感動ストーリー


正直なところ本作は、あまり感想を読まないで観た方がいい。そのため、まだ観てない方は、ラテンの音楽と新感覚の映像美が魅力の作品くらいに思いを留めて、作品を観たほうがいいかもしれません。


※以下、詳細な感想で一部ネタバレになりうる記述あり。



これは絶対に日本でウケる作品。
というのも、広義の意味でのラテン音楽(本作はメキシコ音楽がベースらしいが、スパニッシュなども感じさせる)が本作の魅力の根本にあり、それは日本の懐メロ・歌謡曲に通じているからである。例えば、「星のフラメンコ」などはその代表で、そうした日本人に馴染みのあるベタな本作の音楽全般のメロディがいい。悪く言えば、日本人の感覚的にはダサい音楽ともとれなくもないのだが、今かえってそれが新しいのだろう。そこが面白い。そして、さらに単に音楽だけでそう感じさせるだけでなく、エルネストの派手なステージシーン(序盤と終盤にある)は、完全に新宿コマ劇場の歌謡ショーを彷彿とさせる。アメリカの最新映画が日本の昭和の文化を全力でやっているのが面白い。
また物語の設定自体もお盆を彷彿とさせたり、古きよき家族愛だったりというどこか日本人に懐かしい設定がちりばめられている。

ストーリーもこれまたパターンで王道。主人公の枷や主人公が戻る世界を変えるという根本のストーリーの発想は、明らかに「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をベースにしている。ただそこにうまく上乗せして、オリジナリティを出している。

このように、日本人が観ると余計に、音楽もストーリーもベタなのだが、それをありきたりと思わせないのは絵の力だろう。実際にあるメキシコの置物などをモチーフに使いながらも、幻想的で美しく、どこか中国などの夜市も彷彿とさせるエキゾチックで郷愁もひかれつつ、どこか近未来も感じさせる街並みの絵に、今までにない新鮮な魅力がある。それが作品自体を古く感じさせないことにつながっているのではないか。
また、ストーリー展開も、ラストのオチなど序盤で読める(個人的には読めたが、それでもなお、もう1つ予想しなかった驚きのアイデアが乗せてはあったが)し、基本的には想像がつく展開が多い。しかし、それでもなお感動してしまう。これは、脚本と絵が、ココの歌い出しなど、いいシーンでとにかくためるのがうまいからだろう。また、ミスリードもうまく、パーティーのシーンである重要人物を実在するのかしないのか容易にわからせない演出がうまく、ヘクターが何者なのかを観客にミスリードさせうる描写がうまい。

今回は字幕で本編を鑑賞した。そのため、字幕版で観て良かったのではないかと、個人的に感じた点を2点挙げておく。

まず1つは、スペイン語の魅力。会話(特に序盤)や歌では、英語を基調としつつも時折入るスペイン語が魅力を作り出しているが、この感覚は吹き替えよりも字幕版の方がおそらく伝わるのだろうと感じた。

もう1つは、「リメンバー・ミー」の歌詞。英語で聞くと、"a secret song"と曲の中で歌っているのがキーなのだが、そのニュアンスが字幕だと十分に出ていない。(本作でうまいのが、エルネストが歌うときはアップテンポで、こうしたキーワードがさらっと流されるが、後で別バージョンで聞くとわかるという設定である)また、英語の原曲を聞いた印象では、どこか言葉にはできない感情を歌なら伝えられるし、しっかり伝えたい。そんな思いが込められた歌だと感じた。


【捕捉1】
同時上映された「アナと雪の女王/家族の思い出」は、本作にとって、落語でいうところの枕となっている。というのも、以下のような本作の核心に通じる点を描いておくことで、観客にそのよさをわからせ、より感動させやすくするからである。今回、世間で評価が高い背景にはこのことも理由として考えられるだろう。

・普通の家族にとって当たり前のことが当たり前でないことがあるということ(これは両作とも、当たり前でないことを一点に絞っているから面白い。普通なら我が家だけのルールなど逆に一点ではないが、これを一点にすることでドラマができる)。
・オラフが"family tradition"とさんざん言うが、まさしく「リメンバー・ミー」は"family tradition"の話であること。
・"family tradition"の真相が分かる方法が同じ(あるものがキー)であること。


【捕捉2】
おそらく裏設定で、おばあちゃんも同じ世界へ行ったことがあるのではないかと感じた。正直、音楽を絶対に禁止するおばあちゃんの行動はかなりクレイジーなのだが、自分も同じ経験があったが、すぐにマリーゴールドに触り戻ってきたのではないか。そう考えると、孫を想ってやってるんだというセリフにも納得がいく。自分は観ていて、過去に同じ経験をしたことを匂わせるセリフが終盤あるんじゃないかと予測して観ていたが、それはなかった。


【捕捉3】
これは一緒に観ていた人が気づいたのだが、死後の世界が実は新しいというのはなかなか思いきった設定。というのも、写真がある人しかいないということは、意外と最近の人しかいないので、死後の世界もいくつかの世代ごとに別の世界があるのかもしれない。もちろん、メキシコが舞台なので、移民からと考えればそこまで古くはないが、写真は全員にはなかっただろう。