MasaichiYaguchi

フランス組曲のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

フランス組曲(2015年製作の映画)
3.8
終戦70周年の2015年、邦洋画共に先の大戦をテーマにした秀作が何本も公開された。
アウシュヴィッツで亡くなったユダヤ人作家イレーヌ・ネミロフスキー原作の小説を映画化した本作もそれらに連なる映画だと思う。
第2次世界大戦のドイツ占領下のフランスを舞台に、夫が出征中のフランス人女性と進駐したドイツ軍中尉との恋愛を描いた本作では、戦争という狂気の世界でも貫かれる愛や人間性を高らかに謳っている。
映画の中で「戦争は人間の本性を見せる」という印象的な台詞があるが、戦時下、自らの保身を図る為、下位の者を犠牲にする者や、自らの欲望の赴くまま行動する者が出て来る中、厳格な義母の下で窮屈な日々を送るヒロイン、リュシルは、ドイツ軍中尉ブルーノと触れ合っていくうちに自らの内で眠っていた部分が目覚めていく。
戦争映画では押しなべてナチス・ドイツを狂信的な悪の集団として描くが、このブルーノは、その兵卒たちを統べる中間管理職的立場でありながら、兵士の仮面を脱ぐと、礼節を弁えたナイーブで繊細な感性を持つアーティストとしての面を見せる。
支配する側とされる側という敵対する関係にありながら、あくまで人間性を捨てまいとするリュシルとブルーノの姿に共感を覚える。
そして彼らのこの姿が周囲の人々にも影響を与えていく。
戦時下の息苦しい世の中、様々な縛りで恰も鳥籠に閉じ込められていたヒロインが、心の拠り所となる人と出会うことによって、凛としてそこから飛び立つ姿に胸を打たれる。
この恋愛劇は、人間の本能が剥き出しになる戦争という狂気の世界で、愛と人間性を失わず、一人の女性が自立していく姿を描く物語でもあると思う。