このレビューはネタバレを含みます
今の日本が根本的に抱えている問題に真正面から向き合った作品。
今作がすごいのは、昭和的な価値観にしがみついた父親と、それに服従するしかない妻、優秀で従順だが空っぽな長男と、劣等感だけ植え付けられた次男というあまりにもリアルな家族像を描いているというだけではない。
より重要なのは、一家が完全に破綻する前に再生するチャンスはあったにも関わらず、父親の圧倒的な傲慢さによってそれがちゃんと省みられることなく幕引きされてしまったということを丁寧に描いていることである。
これは、90年代初頭からほころびを見せながらも今もなお自民党に頼っている日本に符合するようであり、東日本大震災によって原発の危険性を目の当たりにしてもなお抜本的な見直しができない日本の姿を重ねてしまう。
父親は自分の行為を一切省みることなく、息子にすべての罪を押し付ける。
そして自分さえ死ねばいいという息子の姿を通して、観客は本当に彼が死ねばそれでいいのか?と思わざるをえない。
田中麗奈は盲信的な博愛主義者のように描かれ、滑稽に見える半面、彼女こそが死刑制度の廃止を望んでいる。
彼女があなたにどう見えるか?
あなたは死刑制度をどう思うか?
いじわるなのは最終番。田中麗奈の言葉をきっかけに父親は自殺を図る。
ちなみにここでは明らかに日本の死刑が絞首刑であることが意識されている。
そして、それが失敗に終わり、その後も残ったそばをすするところに日本の現状がある。
キャスティングも完璧だし、大傑作だと思う。