うるぐす

葛城事件のうるぐすのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
4.6
他人事のように思えない。
とにかく恐ろしい映画だった。
自分の中にこの映画の登場人物のような狂気がもしかしたらどこかに仕舞われてるのではないか、とさえ思ってしまう。
とんでもない凶悪犯。狂悪犯といってもいい。でも、その狂悪犯が成立した過程を描くこの作品を観て、他人事だと思える人の方が少ないのではないか、と思う。
それがこの作品の説得力にして、おぞましい所だ。

近年、「家族」を問うドラマや映画は増えた。星野源は「Family Song」をリリースした時に、「これから家族のカタチはどんどん変わる。今までのようなカタチ以外のものも出てくる」と話した。
そして、この物語は紛れもなく「葛城家」のお話。必死で「良き家族」であろうと、体裁を保とうとする父親。全員の間をうまく取り持とうとみんなに気を遣い、壊れないようにする長男(新井浩文)、否定と攻撃により居場所も自信も全てを失った次男若葉竜也)、その次男を理解しようとすることで自分の優しさを見せようとする母親(南果歩)。全員がそれぞれの意図を持ってて、またその意図によって結局は苦しんでしまう。母親は父親を大嫌いと言ってしまえば関係は破綻するし、父親は子供達に勉強しろと言ったり、色んなことを言ってきた。それは優しい言葉で言えばアドバイスだが、一般論でしかなく、それが正解に結びつかない子供もいる。なんか、最終的に死刑囚になる次男の肩を持ちたくなってしまう自分に驚くんだけどさ。あと、長男が、次男と比べて自分がしっかりしないといけないってところをプレッシャーに感じて、悩みを言えず弱さを見せれなくて悲劇的な末路へと足を踏み入れてしまうあのさまも、もう苦しくて仕方なかった。
家族という共同体は厄介で、生まれた時から関係が始まってしまうから、長年で構築されてしまう部分もきっとあって、その「歴史」を変えることってすごくエネルギーがいるし、反発にもなりかねない。実際、父親は「歴史」という言葉を用いて、20年常連の中華料理屋の麻婆豆腐が辛くなっていたことに激怒する。歴史を動かすことってとてもめんどくさい。だからこそ、母親があの家から飛び出して一人暮らしをして、そこに次男が通うのは当然。だが、それも父親と母親・次男の対立、もしくは父親の孤立をかわいそうに思う兄がその優しさ故にその機会を奪ってしまった。全てが裏目に出てしまう。それはもう、コミュニケーション不足が原因としてしまえばそれまでなんだけども。やっぱり、家族でも苦しい時ってあるんだよ。それを言うのアリにしようよ、とか思った。うん。
この映画に出てくる「家族」の中でやはり異質なのは、次男・稔(若葉竜也)と、死刑制度の廃止を訴えるために実ると獄中婚をした星野(田中麗奈)。この2人を家族としておいた事がとても重い。死刑制度廃止のために稔をある意味利用しようとする星野の方が、ひょっとしたら、稔を救うことが出来たのかもしれない、と思う。それは出会いが遅すぎた(そりゃ、星野は死刑囚になった人間と結婚することを目的としてるから)。その逆説がまた悲劇的だ。
その星野に対して、最後に家族で暮らした家でもう孤独になってしまった父親が放った言葉こそ皮肉で本質を貫いた。
「3人殺すから家族になってくれ」
その発言の直前に力ずくで星野とセックスしようとしたことと、映画前半で星野のやっていることはオナニーだと唾棄したことがリンクしてる。そして、星野に対して次男・稔が「女性ってオナニーするの?」と聞くこともまた、結局は家族を感じずにはいられないから不思議。

この稔の役をオーディションで勝ち取った若葉竜也はすごいし、舞台の時に稔をやり、今回兄の保をやった新井浩文の存在は大きい。南果歩の演技はもう繊細でおぞましい。でも、やはり、三浦友和の存在感と覚悟がなければこんなにも心に残る映画とはならなかったのではないか。。。

すごかった。
うるぐす

うるぐす