アキラナウェイ

葛城事件のアキラナウェイのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
3.4
観るのに覚悟が要りそうで、ずっとNetflixのマイリストに鎮座していらっしゃいましたこちらの映画。
「冷たい熱帯魚」を観て以来、タガが外れたかの様に鑑賞!わかっちゃいたけど、暗い暗い暗い!

素晴らしいのは、人の心が壊れていく様を一人一人忠実に描いている所。

父、葛城清(三浦友和)。マイホームを持つ事=一国の主人(あるじ)となって家族を守る事が信念。決して自分が間違っているとは考えず、力で家族を支配する。

母、葛城信子(南果歩)。食事はもっぱら出前とコンビニ弁当。清の支配下で思考停止しており、夫を愛していない事に気付く。

兄、葛城保(新井浩文)。良い学校、良い会社、父の言う通りのレールに乗って聞き分けの良い子どもだったが、リストラの憂き目に遭うも、家族に言い出せずにいる。

弟、葛城稔(若葉竜也)。引き篭もりのニート。人生、一発逆転させる事を夢見ている。父からの抑圧にフラストレーションを溜めている。

見事だ。
家族全員が少しずつ歪み、壊れていく。
そして稔が起こしてしまう、無差別殺傷事件。

この映画は、人の心の壊し方を丁寧に見せてくれる。何処にでもいそうな家族達が堕ちていく。

三浦友和のクズっぷり演技は流石だ。この人、本当にMr.インクレディブルか!?

しかし、この映画で本当に気持ち悪いのは清でも稔でもない。以下、ちょっとネタバレ含みますので、未見の人はturn back,please.















誰が一番気持ち悪いって、田中麗奈演じる星野順子に他ならない。死刑反対論者の彼女は見ず知らずの稔と獄中結婚を果たす。稔は愛を知らずに生きてきた。自分が愛せば稔も変わる筈。自分の罪とも向き合う筈だと。

えーと、意味プーなんですけど。

彼女の語る愛に1㍉も共感出来ず、ただただ理解不能。
狂気に映る清や稔は、まだ理解出来る。
共感は出来ずとも理解は出来る。

しかし、星野順子の脳内は独り善がりなセオリーで勝手に稔を救えると信じ切っている。毒々しい色のお花畑が彼女の脳内に広がっている。

「凶悪」において、山田孝之演じる記者が観衆の代わりに目となって耳となって事件を追うのは良い。僕らは彼を通して事件を追体験し、恐怖し、気が狂う疑似体験が出来る。

しかし、本作における星野順子はその役目を果たしてはくれない。

終盤、何もかも失った清が順子に襲い掛かり、「家族になってくれ」と懇願する。「俺が3人でも殺せば俺の妻になってくれるのか?」と。順子は驚き、軽蔑の眼差しで「貴方、それでも人間ですか!?」と声を荒げる。

いやいやいやいや。
それを言うなら、貴女こそそれでも人間ですか?

加害者家族の生活と心にズカズカ入り込んで、自分勝手な愛に陶酔している。清の理論は間違ってはいない。

殺人鬼を理解するより理解し難い、この宇宙人みたいなキャラクターをどう捉えて良いかわからず、この映画の捉え方までぼやけてしまった。

三浦友和、若葉竜也、南果歩、新井浩文、葛城一家を演じた彼らは素晴らしかったし、ラストシーンも良かったのに、実に勿体ない。

邦画の鬱っぽさって凄い。
湿気が凄い。
次は…ヒメアノ〜ルかな!
出来れば、頑張って、いつかは、観たいです。